68故郷
「ただいま」
楓が家の扉を開ける。
すると、玄関に一人の女性が来る。
「おかえり、楓………………って、どうしたの?!それ!」
出迎えた楓の母が、楓の腕に抱かれている緋色の生き物…鬼団子を見て、驚く。
「この子は鬼団子。今日の妖獣退治で保護した。ちょっと訳あって、内で今日だけ預かることになった」
「キュキュ!」
挨拶のつもりなのか、鬼団子は小さく鳴く。
「あらあら、そうなの。でも、可愛いわね」
「うん、フワフワ」
楓の母は、鬼団子を興味深く見て、緋色の毛を撫でる。
鬼団子は抵抗しない。
斗真が触ろうとした際は、噛み付いたのに。
因みに、楓の母。
もっと言うと、楓の父もだが。
2人共、楓の実の親ではない。
三つ目という妖怪だ。
楓は赤ん坊の頃、何の理由か、三つ目の両親がいる家の前に捨てられていたらしく、血の繋がりはないが、楓を育てることにした。
楓の父も母も、楓を実の娘だと思っているし、楓も2人を実の両親だと思っている。
「取り合えず、湯を沸かしましょう。ご飯の前に、その子と一緒に、楓もお風呂に入りなさい。その子、泥が結構付いてるから」
「分かった」
楓の母が風呂を沸かしに行く。
10分ぐらい経って、湯が沸ける。
早速、楓は鬼団子を連れて、お風呂場に行く。
お風呂場の前で、服を脱ぐ楓。
そして、鬼団子を抱きかかえ、お風呂場の中に入り、シャワーを浴びる。
「キュキュ?!」
「あ!コラ!しっかり、汚れは落とさないと!」
突然のシャワーにビックリして、楓の腕の中で暴れるが、楓は何とか押さえつけて、シャワーで目立った汚れを簡単に落としていく。
シャワーの後は、湯舟である。
チャプ…。
肩まで浸かる楓。
「ふぅ…」
「キュ…」
楓と鬼団子は同時に一息つく。
鬼団子は大人しく、楓に抱かれている。
綺麗に、楓の胸部にある谷間に納まっている。
「胸も……大きくなったような」
そう言えば、ここ最近体が少しずつ大きく気がする。
階段を小走りで降りたりすると、胸部が揺れて気になり始めるのだ。
背も若干伸びていて、何より胸も前より発達した実感がある。
鬼族特有の角も、鏡で見て、伸びているような、いないような。
兎に角、隗隗高校に入る前より、身体が成長している。
もうすぐ自分も16歳の誕生日を迎える。
人間でも、成人女性の体つきになる時期であり、それは鬼族の女も変わらない。
湯舟に浸かった後は、しっかりと体を石鹸で洗う。
ゴシゴシゴシ。
「キュ…」
楓に現れている鬼団子は気持ち良さそうである。
鬼団子の体を洗った後は、自身の身体を洗う。
髪や肌だけでなく、角もきっちり。
お風呂の後は、食事だ。
楓の母が既にテーブルに夕食を用意していた。
席に着く楓。
その楓の膝の上に、当たり前にように座る鬼団子。
「ただいま」
丁度よいタイミングで、楓の父親が帰ってくる。
楓の父は、「姿化かし」で人の姿に変身し、人のように社会人として働いているのだ。
「お!なんだ、その子は?」
楓の父も、鬼団子の存在に驚く。
楓は父にも、鬼団子の事情を説明する。
父は納得してくれて、楓の隙のしていいと言う。
「「「いただきます!」」」
「キュ!」
楓、母、父の3人に加え、鬼団子と一緒に食卓を囲む。
人のようにご飯を食べる楓と父と母。
そして、鬼団子。
「はい、あーん」
「キュ!」
楓から差し出されるご飯を、美味しそうに食べる鬼団子。
実際のところ、楓のような妖怪も、鬼団子のような妖獣も、人の食べ物を食べなくても、生きていける。
時々、妖気が濃く漂う山や神社、寺院で、妖気を吸いこむだけで、腹が満たされる。
なので、食物を口にするのは、全くの無駄……という訳でもない。
人の食事をするのは、まず単純に美味しいから。
そして、人の生活に溶け込むためである。
楓が通う隗隗高校には、普通の人間もいる。
人間に混ざっても、そのグループに溶け込むために、人の食事を取るのは効果的なのだ。
こういった理由は、前に斗真にも教えたが、それ以外にも、理由がある。
それは、人の食事からでも、僅かに妖気を吸収できるからだ。
そもそも妖気というものは、あらゆる場所に存在する。
それは食物も同じ。
だからこそ、こうして人の食事を取って、妖気を摂取しているのだ。
「隣の県の特集をやっているわね」
楓の母が、テレビを見る。
テレビには、楓が住んでいる長野県の隣の県の映像が流れていた。
その時、テレビに流れてきたのは、海。
それは、海の映像だった。
何の変哲も無い映像。
しかし、
「キュキュ?!」
映像を見た瞬間、鬼団子が慌てた声を出す。
「え?どうしたの?」
驚く楓を他所に、鬼団子は楓の膝から降りて、テレビの方に向かう。
「キュ!キュ!」
テレビの傍に来た鬼団子は、ひたすら飛び跳ね、何かを伝えようとする。
テレビには、依然として、隣の県の海の映像が流れている。
その映像と鬼団子を交互に見た楓は、
「あ!」
一つの結論に辿り着く。
「もしかして、貴方の故郷なの?」
「キュ!!」
楓の問いに、鬼団子はそうだ!と言いたげに反応し、大きく飛ぶ。
正解のようだ。
テレビに映ってる海が、鬼団子の故郷のようだ。
てっきり、山から下りてきたのかと。
だから、今日の夕方に山へ行かせようとしても、一向に行こうとしなかったのか。
テレビにある海は、ここから行こうとしたら、電車に乗って、一時間ぐらいで突く場所。
楓自身、行ったこと無いので、土地柄は良く知らないが。
「明日、琴葉さんに相談してみようか」
退魔士の仕事を一時中断して、鬼団子の故郷へ行けるか、相談しようと考える楓だった。




