65夏休みとカラオケ
キーンコーンカーンコーン。
学校のチャイムが鳴る。
今日の授業の終わりを告げる音だ。
いや、今日に限って言えば、学校における一大イベントを終わらせる音だろうか。
「はぁ…終わったニャ」
五月が大きく息を吐く。
大きく腕を回し、肩を解す。
「ほんっと、テスト疲れたニャ!」
「お疲れ様」
愚痴を言う五月に、楓が労いの言葉を掛ける。
そう、今日はテスト…それも、一学期の全ての学力を図る期末テストの日だった。
勉強嫌いな五月には、苦痛であっただろう。
とは言え、それも終わり。
先程、全ての教科のテストが終了した。
「ふぅ…」
斗真は息を吐く。
さっきのテストを振り返る。
テストなんて、久しぶりだ。
異世界にいたのが、3年なので、かなり間がある。
異世界にいる間に随分忘れてしまった部分も多かったが、そこは放課後や週末の「たぬき喫茶店」での勉強会で、どうにかなった。
テストの点数も赤点には、ならないだろう。
ミーンミンミンミン!!
ミーンミンミンミン!!
教室の窓の外からは、蝉の音楽が聞こえる。
気温も高く、額から汗が出る。
今は7月の上旬。
梅雨を過ぎ、夏の始まりが来る時期である。
これからもっと蒸し暑くなる事だろう。
けれど、多くの生徒にとって、この時期は心が湧くだろう。
何故なら、
「もうすぐ夏休みニャ!」
五月が、はしゃぐように、もう少しで夏休みが訪れる。
7月下旬から8月いっぱいの一か月間の大型連休である。
高校にとって、夏休みは友達とゲームしたり、夏祭りに行ったり、部活動がある人は大きな大会をやったり、時には終わらない夏休みの課題に四苦八苦したり。
兎に角、イベント盛り沢山の夏休み。
五月だけでなく、他の生徒も夏休みを楽しみにしている雰囲気を出している。
テストが回収され、クラスメイト達が帰りの準備をする。
「ねぇ!ねぇ!かえちん、これから打ち上げしようよ!」
「打ち上げ?」
「そ!テストも終わったし、何処かで遊ぼうよ!」
「まぁ…テスト終わりなら良いかな。五月は頑張ってたし」
テスト勉強の際は、斗真だけでなく、五月の勉強を見ていた楓。
と言うか、殆ど五月と楓のマンツーマンだった。
楓はどうにか、勉強を嫌がる五月を励ましながら、根気強く教えていた。
「そうだ!しずっち!しずっちも、どう?」
「え?私ですか?」
突然、話を振られた家内…静子が驚く。
静子からしたら、クラスで本ばかり読んでいる自分に、打ち上げの誘いが来るのは、驚きなのだろう。
五月は静子の手を引く。
「何言ってるの?!しずっちも勉強手伝ってくれたでしょ!それに、私達…友達なんだから!」
「と、友達」
友達と言われ、照れ顔をする静子。
未だに静子からしたら、友達と言われるのが恥ずかしいようだ。
「で、では…ご一緒させても」
「やったーニャ!」
どうやら、五月と楓と静子で打ち上げが決まったようだ。
五月はポンッと手を叩く。
「うん、打ち上げはカラオケにしよう!」
「カラオケ…行ったことが無い」
「私もです」
どうやら、打ち上げ場所はカラオケ。
でも、楓と静子の2人は行ったことが無いようだ。
「大丈夫、慣れれば楽しいから!」
そう言って、五月は楓と静子の手を引っ張り、カラオケに行こうとする。
斗真も帰りの準備をする。
だが、そこで五月たちが斗真の元に来る。
「斗真も、ついでに誘ってあげるニャ!」
「俺は、ついでなのかよ」
呆れる斗真だが、カラオケは確かに楽しそうだ。
こうして、4人はカラオケに向かった。
駅前から少し歩いた先に、カラオケがあるのだ。
早速、一部屋借りる。
「じゃあ、トップバッターは…斗真ニャ!」
「俺?」
五月にトップバッターを任命される。
斗真はタブレットのメニュー画面を開き、そこから歌詞を選ぶ。
選んだのは、最近アニメで流れているメジャーな歌詞。
テレビ画面に、タイトルが表示され、曲が流れる。
斗真はマイクを手に取り、歌いだす。
音程を偶に外しはするが、だいたい大きくズレることなく、歌いきる。
気になるスコアは、
「75点か。まあまあだな」
テレビには、75点のスコアが掲載されていた。
良くも悪くもない点数である。
「中々悪くない歌だったニャ。じゃあ、次は私!」
斗真からマイクを受け取った五月が二番手で歌いだす。
そして、軽快な歌声で五月が歌い終わる。
その点数は、
「91点ニャ!」
なかなかの高得点である。
後で聞いたが、五月は普段から、よくカラオケに行って、歌っているそうだ。
本人曰く、歌っていると、夢の中に入り込むような感覚になるので、歌うのが好きなのだそうだ。
「今度は、かえちん!」
「うん、頑張ってみる」
「かえちんなら、きっと私より高得点だよニャ!」
五月からマイクを渡された楓は、決心を胸に秘めたような顔で、立ち上がる。
楓はカラオケに行ったことが無いが、ずっと行きたいと思っていたのだ。
前からやりたいと思っていたことを、やってみる。
それ故に、ドキドキしているのだ。
楓と静子に関しては、カラオケ初心者である。
なので、まずは楓と静子にカラオケを慣れさせるために、簡単な歌をやってみようと言う事になった。
楓が肺から息を吐き出し、歌い始める。
その結果は、
「「「あはは……」」」
「………」
斗真、五月、静子の3人が苦笑いする中、拍手を繰り返す。
楓は無表情無言だった。
その理由は、テレビの画面に表示されたスコアにある。
スコアは何と………53点であった。
うん、音痴である。
カラオケのスコアは甘えに設定されてある。
普通の人でも、70点ぐらいは出せる。
だけど、楓がマイクを持って歌い始めてから、すぐに気付いたけど、楓は歌詞に合わせて歌うのが、とても不得意のようだ。
いや…声は綺麗なのだ、声は。
ただ、音程がズレまくっているのだ。
故に、あの点数。
学業だけでなく、運動においても、万能の楓にも、こんな面があったとは。
楓も、自身の歌の下手さに、無表情で落ち込んでいた。
「う、うん!かえちん、凄い上手だったニャ!」
「ありがとう、五月。お世辞でも嬉しい」
五月の言葉が慰めであるのは、誰の目からも明らかなので、楓は五月に感謝しながら、マイクをテーブルに置き、椅子に座り込む。
椅子の上で体育座りして。
表情からも落ち込んでいるのが見て取れる。
「私…下手」
「げ、元気出せって!」
落ち込む楓に、斗真が声を掛ける。
慌てて、五月はマイクを静子に渡す。
「き、気を取り直して…次は、しずっちニャ!」
「は、はい!」
静子は緊張した面持ちで立ち上がる。
静子もカラオケが初めて。
何度も深呼吸をする。
そして、歌い始める。
すると、
「「「す、すご!」」」
斗真、五月、楓が異口同音で感銘の声を出す。
テレビに表示されたスコアは、何と96点。
歌い慣れている五月の、さらに上である。
これがカラオケ初心者なので、恐るべし。
歌っている時の静子は、テレビで聞く女優の歌唱力に迫る…と言っても、過言ではない程、上手い物だった。
普段、本しか読んでいない静子に、こんな才能があったとは。
プルルルル。
その時、電話が鳴る。
「はい」
それは楓の持つスマホからだった。
楓は電話に出る。
何か、重要な電話なのか、楓は何度も相槌を打ち、電話越しの相手の話を聞く。
電話は少しの時間で終わる。
終わった後、楓は真剣な顔で、斗真を見る。
この顔、”そう言う事”か。
斗真は楓への電話が、どういった要件かを瞬時に悟る。
「斗真!ここから、かなり離れた所に、妖獣が出たらしい。私と一緒に、退治に協力して!」
「分かった」
打ち上げは、カラオケで4人は一人一曲歌い終わると言う、短いものになってしまった。




