55新しい制服
カン!カン!カン!
トンカチが物を叩くリズムが聞こえる。
「ん~、目立った損傷はないけど、所々に細かい傷があるわね」
ろくろ首である長子がトンカチで、楓の妖具である『飛翔草履』を軽く叩きながら、具合を確かめている。
まるで、職人のよう。
「最近、結構使ってますからね。直近だと、鵺とかで」
「へぇ…かえちんは、これで妖獣と戦っているニャアね」
持ち主である楓も、自身の『飛翔草履』の傷具合を確かめる隣で、五月が物珍しそうに草履を見る。
ここは、駄菓子屋「ながつか」の地下。
台所の床にある床下収容庫が入り口となっている。
「ながつか」は表向きは駄菓子屋でも、こうして地下には、妖具店として多くの妖具が収容されているのだ。
周囲には、多種多様な妖具が置かれた棚が陳列している。
刀や槍などの武器だけでなく、鎧や鎖帷子などの防具、縄や釘などの道具もある。
斗真の持つ「花咲の弓」も、元々ここにあった。
「斗真君の弓も見せて貰っていいかしら?」
「はい」
斗真は持っている弓を渡す。
渡された弓を、長子は注意深く観察する。
弓を手で叩いてみたり、弦を引っ張ってみたり。感触を確かめる。
これは後で楓から聞いたことだが、どうやら長子は駄菓子屋をやる前は、妖具の修復屋をやっていたそうだ。
「う~ん…触った感じ、問題は無いみたいね。斗真君は、この弓を使ってみて、何か問題とか無い?」
「いいえ、凄く使いやすいです」
「そう、ならよかった。この弓はずっと使われずに、埃を被っていたから。役に立って嬉しいわ」
何度か、長子は『飛翔草履』と『花咲の弓』を細かく点検した。
「そうね…メンテナンスしてみたところ、どっちの妖具も、まだ破損している部分は無いし、すぐに修復作業をしなければいけない事も無いわね」
そう言って、妖具を斗真と楓に返す。
「もし、何か問題があれば、また私のところに来て。私でよければ、いつでも修復はしてあげられるから」
そこで、長子は何かを思い出す素振りを見せる。
「あ!そう言えば、楓ちゃんには、渡したい物があったわ」
「渡したい物ですか?」
「ええ、以前頼んでおいた制服のやつ」
「制服………ああ!あれですか。もう、届いたんですね」
楓には、心当たりがあるみたいだ。
「一昨日、ちょうど届いたの。待ってて、今持ってくるわ」
そう言って、長子は一階に戻る階段を上がっていく。
その制服を取ってくるみたいだ。
因みに、五月は周囲の妖具がたくさんある棚を見て回っている。
五月も妖怪とは言え、妖具は珍しいのだろう。
危険だから触らないようにと、楓から厳命させているので、斗真のように急に触ることは無いだろう。
「なぁ…制服ってのは?」
「私が前から発注してた防具のための制服」
「防具?今来てる制服とは違うのか?」
「うん。妖糸っていう特殊な糸で編まれた制服。製法自体も特殊で、作れるのは天狗だけ。天狗は日本でも、大体京都にしかいないから、京都にいる天狗に頼むしかないの」
京都と言えば、退魔士協会本部のある場所。
仁の話では、京都には天狗がいるみたいだけど、京都にしか基本いないということなのか。
「妖糸で編み込まれた防具や着物は、とても頑丈で滅多な事では壊れない。私が退魔士になった直ぐ後に、制服の作成を依頼したけど、ようやく届いたみたい」
「確かに、防具は大切だよな」
斗真も異世界において、防具の大切さは知っている。
防具はあったからこそ、乗り切れたピンチは数多くある。
「少し前に、妖獣の大入道と戦ったでしょ?」
「ああ、楓以外の鬼族が巻物から出した」
「そう。あれとの戦いで、着ていた制服がかなりボロボロになっちゃって。お陰で新しい制服と取り換えることになった」
大入道との戦いでは楓が不覚を取って、大入道の叩きつけを諸に食らってしまい、制服もそれでボロボロになった。
現状、楓には鬼族としての特殊な緋色の髪を使った槍や針、今回メンテナンスに出した『飛翔草履』、体内の電電玉を使った〈電電〉という強力な武器を持っている。
だが、どれもが攻撃用であり、防御主体のものが一つも無い。
それを特殊な制服の防御で補う気なのか。
「お待たせ!ふぅ…よいしょっと!」
「あ、手伝います!」
「ありがとね、楓ちゃん」
そうやって、斗真と楓が話している内に、長子が段ボール箱を持って、降りてくる。
ただ、その段ボールが大きめであるので、降りる時が不安定である。
すかさず、楓が補助する。
妖具のある地下に段ボールを下ろした長子は早速開ける。
開けると、中には制服があった。
「わあ!デザインはウチの高校の物と同じだニャ」
五月が段ボールにあった制服と、自身や楓が着ている自身の高校の女子生徒の制服とを見比べる。
五月の言う通り、隗隗高校の女子制服と、ほぼ…というか、全く同じだ。
それは、そうか。
妖獣との戦いのときに、態々着替えるよりも普段から来ていた方が楽だしな。
「この制服の名前は、『妖鎧衣』。名前の通り、鎧の如き衣よ」
長子が制服の名称を言う。
強そうな名前。
「〈万能眼〉〈魔力眼〉」
俺はスキルを発動させ、〈魔力眼〉で制服を見る。
〈魔力眼〉を使うと、魔力を可視化できるのだ。
「なんて、綺麗な魔力の編み物」
斗真は制服を見て、感嘆する。
制服の表面には、魔力…つまり、妖気が込められていないように見える。
だが、その実…内側には丁寧に編み込まれた妖気が見られる。
一見すると、ただの制服。
しかし、斗真のような魔力を視認できる者や、魔力感知に長けたものなら、内側に強力な魔力の糸が形成されているのが分かる。
これが、楓の言っていた妖糸であろう。
長子が軽々と扱っていることから、軽量さも普通の制服と同等だろう。
これは制服に見えて、超高性能な鎧だ。
「じゃあ、着てみるかい?サイズが合っているどうか確かめたいから」
「分かりました」
長子の提案を受け、楓は制服を着て取る。
そして、制服を手触りで確認してから、斗真の方を見る。
「じゃあ、斗真…ここで着替えたいから、暫く上に上がってて貰える?」
「あ…うん、分かった」
斗真は言われた通り、上に上がろうとする。
「斗真!かえちんの着替えが見たいからって、覗いちゃダメニャ」
「な!?覗くか!」
五月が冗談を言う。
斗真は咄嗟にツッコむ。
「ふふ…斗真君も男の子ね」
「全く、斗真は」
長子は小さく笑う。
そして、恥ずかしいのか、楓は斗真を困った顔で見て、頬を少し赤くさせていた。
「だから、覗かねぇよ!」
俺は再びツッコむのだった。




