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『退魔鬼譚』 ~鬼族の美少女と異世界帰りの勇者は怪異退治が任務である~  作者: 星衛門
第三章 河童と土蜘蛛

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36/64

36口付け




 大入道の苛烈な振り下ろし攻撃を受けて、体中を傷だらけになった楓は全身の痛みで地面に仰向きに倒れたまま、何もすることが出来ずにいた。


 「ウヒヒ」


 そんな大入道は先程、楓を攻撃していた際の激昂した様子とは打って変わって、ボロボロになり、横たわる楓を口角を上げて、小さく笑っていた。


 徐に、大入道は腕を伸ばし、倒れている楓を鷲掴みにする。

 楓は対抗することすら出来なかった。


 拳の中で握りしめられたまま楓は大入道の目線の高さまで上げられる。


 そして、大入道は楓を掴んでいる拳に力を入れ、傷だらけで動けない楓を押し潰そうとする。


 「うう?!」


 全身を押し潰される痛みで楓は呻き声を上げる。

 それを見た大入道は一際ニヤリと笑い、更に拳に力を込める。


 ミシミシ……。

 楓の身体中から硬いものが壊れる寸前の音が聞こえる。


 バキ!

 その時、楓の体の中の肋骨や鎖骨、腕の骨などに、ひびが入る音が鳴り響く。


 「あああああ!!!」


 あまりの痛みに楓は思わず、絶叫する。


 痛みからの反射行動で、頭や手足を動かそうとするが、大入道の手から逃れることは出来なかった。

 暫く、抵抗してみたが、楓の次第に体が動かなくなり、ついには目を閉じ、気絶する。


 それを見た大入道はとどめと言わんばかりに、楓を握りしめた拳を大きく開いた口の方に持っていく。


 このまま楓を飲み込む気だろう。


 楓の体が大入道の口の中に差し掛かり、一口で大入道の口の中に収まる。


 「……で………でん………でんで…」


 もし、大入道の口の中に耳があれば、聞き取れていただろう。

 口の中に入った楓の唇から出る細い声に。


 握りしめられていた拳から解放され、体中に感じていた圧迫感から幾分か逃れた楓が最後の力を振り絞り、体中の妖気を腹部にかき集め、


 「でんで……で………〈電電〉!!」


 バリリリリリリリリィ!!!


 その時、大入道の口内が光り輝く。

 楓が発した電撃によって。


 楓の腹の中心には電電玉という生体妖具のようなものがあり、それによって強力な電撃を発生させているのだ。


 「ウガガガ??!!」


 今度は、大入道が絶叫を上げる。


 当然だ。

 口に中で雷が発生したのだ。


 けれど、ただでさえ体力の消耗の激しい〈電電〉を、弱り切った体で行使するのは無理があった。

 すぐに雷の発生は収まる。


 大入道の方も尋常ではないダメージを負った感じではあるが、まだ決定的な一撃には成りえなかった。


 だが、十分だ。

 あそこまでのダメージを負わせれば、この一撃で決まる。


 ……………………そう思った斗真は、右手に握っていた矢を離す。


 「魔剛射」


 弓と矢と腕を魔力で強化させ、限界まで溜めに溜めて放った破魔の矢。


 鬼族の男の〈結界〉を一撃で破った攻撃とは比べ物にならないほどの威力の矢は、楓が大入道を閉じ込めるために構築した〈結界〉の()()から放たれ、大入道の額に見事、命中する。


 そのまま破魔の矢は大入道の頭部を貫通する。


 「ガガガ??!!」


 大入道は再びの絶叫を上げ、とうとう倒れる。


 実は、斗真は大入道に踏み潰されそうになる前に「縮地」で素早くその場から脱出していたのだ。


 「縮地」は脚を魔力で強化し、蹴る際に地面に魔力を放出して行う高速移動であるため、傍から見れば踏み潰されたように見えただろうが、斗真は回避した後に、そのまま〈結界〉の外まで行ったのだ。


 「魔剛射」を撃とうとしても魔力を溜める技である以上、少し時間が掛かる上、魔力を溜めるので妖獣である大入道に気づかれてしまう。


 だから、〈結界〉の外に行ったのだ。


 〈結界〉は、異世界の〈フィールド〉と原理は概ね同じ。

 強固な〈フィールド〉は物理攻撃を弾くだけではなく、魔法や魔力を遮断する効果もある。


 なので、〈結界〉の外に出てしまえば、「魔剛射」を放つために魔力を溜めていても、大入道に気づかれない。


 楓が構築した〈結界〉は外からでは中の景色が見れない効果があるが、そこは斗真が持つ勇者のスキルである〈万能眼(オール・アイ)〉による〈魔力眼〉と〈透視眼〉の合わせ技で、どうにかなった。


 魔力を溜めている最中に、楓が大入道の猛攻を浴びたのを見た時は、助けに行きそうになった。

 けれど、頑丈な大入道を仕留めるためには、可能な限り魔力を溜める必要があると考え、踏みとどまった。


 楓がボロボロになった状態で飲み込まれた際は、思わず「楓!!」と叫んだが、斗真は楓を信頼した。

 その信頼を裏付けるように、大入道に強力な雷が襲った。


 言わずもがな、楓の〈電電〉による能力だ。


 そして、「魔剛射」を放ち、大入道を倒すに至った。


 大入道は斗真の「魔剛射」が決定打になり、地面に倒れ、そのまま空気のように消えた無くなった。

 後に残ったのは、傷だらけの楓だけ。


 『スキル〈万能眼(オール・アイ)〉のレベルが上がりました。〈未来眼〉が使用可能です』


 斗真の耳に機械的な音が流れる。


 これと同じ経験をしたのは、泥田坊を倒した時。

 あの時は泥田坊を倒した影響で〈透視眼〉という新しいスキルを手に入れた。


 今度は〈未来眼〉か。


 〈結界〉が解かれる。

 恐らく、構築した楓本人が気を失ったせいだろう。


 斗真は急いで楓に駆け寄る。


 「楓!!楓!!」


 体を揺らして、名前を呼んだが、反応は無かった。


 体には、大入道で握り締められたことによる多くの痣。

 肌が青白くなっているところ見るに、至る所で内出血も起きている。


 斗真は〈魔力眼〉で楓の体を隈なく、見る。


 楓の魔力は殆ど無かった。

 大入道から受けたダメージに加え、〈電電〉による大幅な魔力と体力の消費。


 楓の体に深刻なダメージが及んでいるのは間違いない。

 このまま放置は危険。


 斗真は応急処置のために、出来ることをする。


 楓の上半身を起こし、楓の顔を上に上げ口を開かせる。


 次の瞬間、斗真は楓の口にある整った形の桜色の唇に、自身の唇を当てる。

 斗真の唇に、途轍もなく柔らかい感触が伝わる。


 そう…斗真は口付けをしたのだ。


 反射的に、楓の唇の柔らかさと温かさから、斗真の心拍数は増加し、顔はつい熱くなるのを感じたが、今はそれどころではない。


 斗真は体中の魔力をかき集め、それを口に集中させる。


 そして、集中させた魔力を口から、楓の口を移し、彼女の体の中へ注ぎ込む。


 これは「供魔息吹」という自身の魔力を他者へ移すことで、深刻な傷を負った者を癒す異世界の技である。


 魔力は魔法のエネルギーであり、身体の能力を強化させる生命エネルギーでもある。

 魔力を注ぐことで、体に生命エネルギーを供給するのだ。


 原理を聞くと単純そうだが、魔力を持つものは、それぞれ微妙に波長の違う魔力を持っている。

 同じ波長の魔力は存在せず、例え魔力を他者に注いでも、一、二割しか適応されない。


 だからこそ、他者の傷を目に見えて、治療する際は、多くの魔力を注ぐ必要がある。


 自身の魔力を他者に移す際に、最も効率が良いのは、粘膜接触による供給。

 つまり、唇から唇への接触が良いという事だ。


 まぁ…もっと言うと……………………これよりも効率的な粘膜接触による「供魔息吹」があるが。


 その方法は、余り口に出して言えないが、恋人同士などに限る。


 兎にも角にも、斗真は楓と唇を合わせることで、魔力を供給させ、傷を癒そうと試みた。


 その効果は現れた。

 斗真はこれでも勇者であり、多くの魔力を保有している。


 斗真の魔力が大量に供給させたことで、楓の顔色の血の気が戻り始める。

 体が回復に向かった証拠だ。


 「…………んん」


 楓が閉じていた目を開け始める。


 始めは目を朧げに開けていたが、段々と目に生気が宿り始める。

 意識がはっきりしてきたのだ。


 ……………しかし、それによって己の体に起こっている出来事を把握するに至る。


 斗真と楓の眼が合う、至近距離で。

 お互い、唇を合わせているからだ。


 状況を段々と把握してきた楓は頬を自身の髪色と同じように緋色に染め始める。


 「んん??!!」


 この後、斗真から唇を離した楓が別の意味で絶叫したのは、言うまでもない。




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