27河童①
場所は斗真たちが通う隗隗高校がある隗隗街の商店街。
日本の中でも田舎として扱われがちな長野県、その片田舎の商店街とは言っても、意外なほど店の数が多く、たくさんの店が並んでいる。
週末ともなると、多くの買い物客が商店街を訪れ、人で賑わう。
五月が始まってからのゴールデンウィークも、初日から人で賑わっていた。
しかし、そんな商店街で事件が起こる。
「安いよ!安いよ!」
商店街の一角にある小さな八百屋。
店主が声を張り上げて、品物を売ろうとしていた。
「すみません。キュウリを下さい」
「へい、毎度!」
通行人の一人がキュウリを買おうとする。
店主は、にこやかな笑みでキュウリを渡そうと、棚を見ると、
「ありゃ?」
キュウリが置いてあるはずの棚には、キュウリは一本も無かった。
店主がどこを見ても、キュウリは見つからなかった。
また、別の店で、
「あれま…キュウリがねぇ」
キュウリが無くなっていた。
そして、別の店でも、
「誰だ!キュウリを盗んだのは?!」
やはり、キュウリが無くなっていたのだ。
この日、商店街の全ての八百屋で売られていたキュウリが無くなるという奇妙な事件が起こった。
その次の日。
ゴールデンウィーク二日目のお昼過ぎ。
「ヤッホー!斗真、こっちニャア!」
五月が斗真に向かって、手を振る。
クラスでは、陽キャグループの筆頭。
実は先日、猫又という妖怪だと分かった。
そんな彼女は、白とピンクの半袖のボーダー服に、デニムショートパンツと、春服らしい見た目である。
因みに、斗真の服装は白いTシャツと長ズボン、黒い薄手のジャケットと、友達と遊ぶことを考えたら、無難な見た目である。
今日は五月と楓と一緒に、商店街で買い物をする予定なのだ。
特に具体的な何かを買う予定はなく、自由気ままに。
斗真と五月が合流して数分経つと、楓が現れる。
「お待たせ」
「かえちん、可愛いニャア!」
楓は白地のスウェットと短パンに、サンダルを履いていた。
楓は制服を着ている時、きっちりしている印象だが、私服姿はとても可愛げがある。
「それじゃあ、行こうニャア」
集まった斗真と楓と五月は揃って、商店街に行った。
商店街に来たのは、数日前に妖具店へ行った時以来だ。
あの時は、妖具店である「ながつか」が表通りから逸れた裏路地にあるため、商店街の表通りを余り通らなかったが、今は表通りを歩きながら、斗真たちはいろんな店を周っている。
主に、女子組は…であるが。
「うんうん、靴も買い替え時ニャア」
「私はまだ履けると思うけど、
ある店では、多くの靴を見回していたり、
「このアクセサリー、可愛いニャア」
「確かに、これ綺麗」
別の店では、アクセサリーを物色したり、
「この服、絶対かえちんに似合うニャア」
「そ、そう」
さらに別の店では、たくさんの服を試着したり…と、この商店街は片田舎のくせに、規模は中々大きく、様々な店が並んでいる。
女性組の二人は、主に服屋や装飾品屋を中心に買い物をしていた。
最早、ただの楓と五月による買い物イベントであった。
しかも、一つ一つの店を周るのが、長い。
斗真は買い物をする二人を殆ど眺めているだけであった。
パッと決めて、買えばいいのではと、喉まで出かかったが、流石に空気を読んで止めた。
二人が楽しそうなので、それでいいじゃないかと思うようにした。
だが、不満点を一つ上げるなら、
「ほい、斗真。これ持つニャア」
斗真が荷物持ちをしている事だ。
既に斗真の両手には、多くの袋が抱えられていた。
「お、お前……さては荷物持ちのために俺を読んだな」
「そんな訳…………無いニャア」
「間があったぞ!」
「そう怒んないでニャア。アイスでも奢ってあげるから」
こうして斗真は、ゴールデンウィークの二日目の午後を荷物持ちで終わることに………………なるはずだった。
もうすぐ夕方に差し掛かる時間帯になろうとしている時であった。
「ふぅ…」
斗真は荷物を商店街の済みある広場のベンチの上に乗せ、自身も座り、一息つく。
今日は完全に、女性の買い物に付き合わされただけだった。
一応、斗真には魔力があるので、身体的な疲労は余り無いが、精神的疲労が大きい。
「乙」
斗真の頭の上に冷たいものが置かれる。
見ると、五月が自動販売機から買ってきたジュースを頭の上に載せていたのだ。
「上げるニャア」
「はは…ありがとう」
荷物持ちの代金として、斗真はありがたく…………とは思っていないが、ジュースを頂くことにした。
その時、
「まただ!また、無くなってる?!」
「ん?」
ジュースを喉に流し込んでいた際に、突然男性の怒号が聞こえた。
そっちを見てみると、八百屋の恐らく店主の声だった。
店主はたくさん並んでいる野菜の棚の中でも、一つの場所を見て、難色した顔を見せていた。
そこには、何も無かった。
多分何かの野菜が置かれていたんだろう。
「何で今日もキュウリがねぇ?!在庫はもうねぇぞ!」
店主はそう叫ぶ。
どうやら、何も置かれてなかった場所には、キュウリが置かれていたようだ。
それが今、無い。
誰かに盗まれた?
斗真がそう思っていると、プルルルル。
楓の懐からスマホの鳴る音が聞こえる。
「はい、楓です」
楓が電話に出る。
暫く、電話で会話をした後、
「斗真、役所の墨岡さんから連絡」
それを聞いて、一瞬で退魔士に関しての電話で会ったことを斗真は把握する。
「昨日、商店街の全ての八百屋さんからキュウリが無くなる事件が起こったそうなの」
「キュウリが無くなる?」
「うん。しかも今日もそれが起こったみたい」
たった今そこの八百屋の店主がキュウリが無いと叫んでいた。
これが昨日も起こったのか。
キュウリが全て無くなると言う怪奇現象。
これが起こせそうなのは………、
「役所は、これを妖怪の仕業と考えてる。だから、私達に調査をして欲しいと」
「なるほど。でも、キュウリを盗みそうな妖怪と言ったら」
それは日本人なら誰でも知っている妖怪。
頭に皿があり、水かきがあり、キュウリを大好物とする妖怪。
「河童ね」
楓が答えを言う。
「何か知らないけど、二人とも頑張れニャア」
斗真と楓が退魔士であることを知っている五月は、小さく応援する。
折角の休暇と思っていたゴールデンウィークだが、またひと悶着ありそうである。




