第23話 断罪
サミエルが少し間を置いたことで、重苦しいまでの静寂が落ちた。まるで牢獄に入れられたかのように息が詰まる。王が椅子に腰かけたままわずかに体を起こした。
「続けろ」
サミエルが次に語る事ははだいたい察しがつく。私は今すぐにでもこの場から逃げ出したかった。
「マーカスは一学年時の夏期休暇に故郷のザイロへ帰りました。その際、同級生の一人が彼に同伴しております。そこにおりますジュノ・ダリンジャーです」
彼が指を差すのと同時にざわめきが起こり、皆の視線が私に集まった。侮蔑するかのような、嫌悪するかのような、とにかく肌に突き刺さるような鋭い視線だった。
「た、確かに娘がザイロへ行った事は聞いております! しかしそれはあくまで観光が目的でよこしまな気持ちなどではありません! そうだろ!? ジュノ!」
「え……あ……」
口だけがはくはくと動く。けれど頭が真っ白になって言葉が出てこない。お父様が言ったように観光で行ったのは事実だ。少し強引にお願いしたかもしれないが決して悪気があった訳ではない。私の言葉を待つことなくサミエルが話を続けた。
「マーカス本人も言っておりました。彼女がザイロを見てみたいと言ったので連れて帰ったと。ただ彼女は一ヶ月近く滞在し、その間はずっとバッシュ家に宿泊していたそうです。さて、婚約者が故郷に女性を連れ帰り、そして常に寝食を共にする。ただの学友だと二人は言っているが、それを見ていたアリスさんはどう感じたでしょうか? 何を思っていたでしょうか?」
サミエルは再び間を置いた。まるでそのことを私自身が考えろ、と無言で告げるかのように。短い静寂の後「そして――」とサミエルが話を続けた。
「そしてその夏期休暇以降、マーカスの手紙にはジュノという名が頻繁に書かれるようになります。学園での闘技大会や学園祭での出来事。おそらくアリスさんは婚約者の心が離れていってしまうのを感じていたでしょう。しかもマーカスは一度帰郷した以降、今日までザイロに帰ってはおりません。つまり約四年間、アリスさんとは顔も合わせていなかった事になります」
一際強いざわめきが起こった。皆一様に信じられないといった表情を浮かべている。けれど非難されるべきマーカスはここにはおらず、その怒りは全て私に向けられる。
「マーカスからの手紙は少しずつ減っていきました。グレイン家の秘書によるとアリスさんの方は定期的に手紙を送っていたようです。ただ返事が来ない事も多かったと証言しておりました。そして残念な事にアリスさんからの手紙は一通も残っておりませんでした」
「だが彼女の想いは推し量る事が出来るな。して、彼女はなぜ婚約解消をしなかったのだ?」
険しい顔のまま、王がサミエルに問うた。彼は手元の書類をいくつか王に差し出した。
「こちらはここ三年間の辺境騎士団の武器の納品書でございます。購入先は全てグレイン商会となっております」
「辺境騎士団の団長はアーゲン・バッシュか……」
「左様でございます。グレイン家の調査報告は近く別の者が行う予定でございます」
「まあ聞かずとも大方の予想はつくがな。して、今回の件。そなたの見解を申してみよ」
「最初から彼女は別れを告げるために王都へ来たのではないかと推測します」
サミエルは一旦言葉を切ると書類の束から皺の寄った一枚の紙を取り出した。
「こちらは希望の門の外で私が偶然拾った手紙でございます。くしゃくしゃに丸めて捨ててあったのですが『ジュノ』という名前が書かれてあったので保管しておりました。彼女は一応私の婚約者ですので……」
「なんと!」と誰かが叫んだ。王はすでに知っていたのか、その表情を変える事はなかった。
「この手紙はマーカスがアリスさんに宛てたものでした。筆跡も一致しております。彼は王都でアリスさんとの婚姻の儀を取り行うつもりだったようです。手紙にはその旨が書いてありました。そしてその予定日は12月15日。偶然にも私達が婚姻の儀を挙げる予定だった日と同じです」
「それはマーカスが勝手に! 私は知らない! 私は関係ないっ!!」
王の御前というのも忘れ私は大声で叫んだ。王がちらりと私を見る。けれどサミエルは前を向いたまま振り返ろうともしなかった。




