第15話 蘇る愛
オークの腕が振り下ろされようとしたその時、背後から炎を帯びた一閃がオークの腕を切り落とした。咆哮をあげながらオークは倒れ、切り離された腕はジュノを掴んだまま地面へと転がった。
「……ケヴィンか?」
鋭い剣を放ったのは騎士団の同僚であるケヴィンだった。彼が握る剣からは炎が立ち込めていた。
「大丈夫か!? マーカス!」
「ああ! 大丈夫だ! それよりジュノを――」
おれの言葉を待たずにケヴィンはジュノの元へ駆け寄った。慌てておれも彼に続いた。オークの指を二人で抉じ開けて彼女を救い出す。気を失ってはいたが息はあった。おれは安堵のあまりその場にへたり込んだ。
「おまえならオークなど敵ではないはずだが? 何かあったのか?」
「ああ……剣の魔法付与が切れてしまって……オークにへし折られてな」
おれは無残に投げ捨てられている剣を指差した。ケヴィンはそれを見た後、わずかに首を傾げた。
「あれは、支給されている剣じゃないな。おまえ先月支給された剣はどうした?」
そういえば確かに先月、新しい剣が騎士団全員に支給されていた。おれには必要ないと思い、家の倉庫に眠ったままだ。ケヴィンが手にしている剣を見れば、あちこち魔物の血が付いてはいたが刃こぼれなどは一切なく、その刀身は光り輝いていた。
「こいつのお陰で魔物相手でも互角に戦える」
剣を顔の前に掲げるようにしてケヴィンは勇ましく笑った。彼は騎士団の中ではそれほど実力上位の者ではなかったはずだが、今は自信に満ちた顔をしていた。
「この剣の魔法付与はおまえの婚約者が施したと聞いたぞ?」
「え? それは本当か?」
「ああ。確かグレイン商会の娘さんだろ? 彼女が全ての剣の付与をしていると聞いたぞ。まさかおまえ知らなかったのか?」
ケヴィンが信じられないといった顔でおれを見た。だがおれはそんな事まったく知らなかった。もしかしたらアリスが手紙で伝えていたかもしれないが、おれは彼女の手紙をほとんど読んでいなかった。
「このような魔法が付与出来るなんて素晴らしい才能じゃないか。きっと騎士団全員が彼女に感謝しているぞ」
「ああ……そうだな」
知らないうちにアリスは成長していた。小さい頃、彼女がおれにいろんな魔法を見せていた事を思い出した。楽しかった頃の二人の思い出が蘇る。なぜおれはそんな大切な事を忘れていたんだろう。
ふと倒れているジュノを見ると白目を剥いて涎を垂らしていた。誰かが言った。百年の恋も一瞬で冷めると。おれはそんな事はないと思っていたが、今まさにこの瞬間、どうやらジュノへの想いが消え去ってしまったようだ。
この危機を乗り切ったらアリスに伝えよう。愛しているのはおまえだけだと。そして彼女と結婚し、末永く幸せに暮らしていこう。おれの横を歩くのはジュノではなかった。身近にいる運命の人とはアリスの事だったんだ。
「とりあえず王城へ連れて行こう」
ジュノを抱き上げケヴィンが王城へ向かって歩き出す。おれはゆっくりと立ち上がり彼を追いかけようとした。だがその時、背後から只ならぬ気配を感じる。一瞬で背中に寒気が走り足が固まって動けない。どうにか体を捻じって振り返ると、そこには禍々しいまでの魔人の姿があった。オークを遥かに凌ぐその巨体はまるで暗黒に包まれているかのように揺らめく影に覆われていた。それはまるで触れられた瞬間に命を奪われそうな雰囲気だった。
「やばい! あれは魔王だ! 逃げろマーカスっ!!」
ケヴィンがジュノを抱えたまま走り出す。だがおれは一歩も動くことが出来なかった。魔王は音もなくおれの方へと近付いてきた。頬まで裂けた口がまるで嘲笑うかのようにゆっくりと開く。そして魔王の鋭い爪がじわじわとおれの方へと伸びてきた。
「危ないっ!!」
真横から物凄い衝撃が走った。おれの体はそのまま吹っ飛ばされ、近くの建物の壁にめり込んだ。
「ごめん。全然避けようとしないもんだから、つい……」
そこにいたのはアリスだった。金色の髪をなびかせながら彼女は颯爽と風のように現れた。
ここまで当作品を読んで頂き誠にありがとうございます。私事ではありますが、今作品を書くにあたり2年ほどのブランクがありました。最初のうちは感覚が戻らずふわふわ書いておりました。読み返す勇気もございません。
たくさんの方に読んで頂き、そして評価を頂くことの難しさを改めて実感しております。
物語も終盤となります。まだまだリハビリ途中ではありますが最後までお付き合い頂ければ嬉しい限りでございます。
三毛猫ジョーラ




