第14話 消えゆく愛と壊れた剣
王都の門まではまだかなりの距離がある。でも私の体はとても軽かった。本当に風になったようだ。体もそうだが、なにより心が軽やかで晴れやかだ。こんなすっきりとした気分はいつ以来だろう。風と一緒に颯爽と走っていると内ポケットに入れていた手紙がバサバサと飛び出そうになっていた。
「そういえばマーカスの手紙持ってきてたんだっけ」
先週届いた彼からの手紙には婚姻の儀を行う旨が書いてあった。婚約解消も叶わないのだ。私はもう受け入れるしかないと思った。手紙には結婚を決めた理由も書いてあった。「ジュノが結婚するから――」「彼女にも一旦おれの苦しみを知ってもらい――」「困難を乗り越え彼女を救い出すために――」
よくよく読んでみると彼は何を言っているのだろうか? 私と結婚するのは彼女への当てつけだとでもいうのだろうか? 冷静になって考えてみるとあの男はなんと自分勝手な糞野郎だろう。もう金輪際、周りに気を遣い我慢するなんてことはやめた。最後にマーカスに会って今までの怒りを全部ぶつけてやる。私は手紙をくしゃくしゃに丸めてポイっと投げ捨てた。
徐々に王都の門が近づいてきた。その前では騎士団と魔物の大群が入り乱れるようして戦っていた。騎士が振るう剣は炎を撒き散らし魔物達と善戦しているようだった。特に目立っていたのは水と雷魔法を付与した剣だった。
「うん。我ながら上出来」
まさか自分が付与した魔法剣をこの目で見るとは思わなかったけど、今まさに魔物を駆逐している様を見るとなんとなく誇らしかった。騎士団が魔物達を押し返し優勢かと思われたその時、大きな爆発が戦場のど真ん中で起きた。
魔王が放った魔法だった。魔物もろとも騎士達をも吹き飛ばし、頑強な鉄の門に大きな穴が空いた。魔王を先頭にして魔物達が王都の中へと流れ込んで行く。
「まずい! 急がなきゃ! 風の羽!」
大地を一蹴りすると体がわずかに浮き上がり一気に速度が上がった。バサっと音を立て、取れたマントが後へと遠ざかった。未だ立ち込める炎の中を突き進み、私は鉄の門をくぐり抜けた。
「きゃあぁぁぁーー!! 助けてーマーカス!!」
恐怖で絶叫をあげながらジュノがおれの背中にしがみついてきた。目の前には一匹のゴブリン。おれはジュノを守るために彼女の屋敷に立て籠っていたのだが、どうやら希望の門は打ち破られたようだ。こうもたやすく破られてしまうとはなんとも情けない。
「でいやっ!」
愛剣を一太刀振るうとゴブリンの体から炎があがった。それに驚いたゴブリンは一目散に逃げていく。流石はジュノが魔法付与した剣だ。実戦で使うのは初めてだが素晴らしい威力だ。
「ジュノ! ここは危険だ! 王城に向かおう!」
怯える彼女の手を引きながら、おれは王城へと続く大通りへと向かった。すでに王都のあちこちで戦火があがっている。人々は逃げ惑い、騎士達の多くが傷つきながらも魔物と戦っていた。
「きゃぁぁぁぁーーー!!」
ジュノが再び悲鳴をあげた。おれ達の行く手を阻んだのは一頭のオークだった。敵はのっしのっしとこちらへと近づいてきた。
「でぃやぁあああああ!!」
おれはオークに向かって大きく剣を振った。炎を纏ったその一撃がオークの腕をを切り裂いた。一瞬怯んだ隙をおれは見逃さない。次は横薙ぎに剣を振るいかけたその時「プスゥー」と音を立てながら炎が消え失せた。
「なっ!?」
炎の消えた剣が力なくオークの腕にコツンと当たる。オークは嗤いながらその剣をおれからもぎ取ると真っ二つにへし折った。
「ちょっとあなたっ! なにやってるのよっ!」
後ろでジュノが大声で叫んだ。だがおれは理解が追いつかない。
「なぜだ……なぜ最強の武器が……」
半ば呆然としていると「ギャー!」というジュノの金切り声が耳をつんざいた。振り返るとオークが彼女を鷲掴みにしながら頭上へと振り上げていた。まさかそのまま地面に叩きつけるつもりか――
「ジュノーーーー!!!」
伸ばした手は彼女に届きそうもない。愛する人の名を呼ぶおれの声が、ただ虚しくこだましていた。




