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婚約者に会うためにアリスは空を飛ぶ  作者: 三毛猫ジョーラ


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第13話 錯綜する男と女


「ごめんなさい、マーカス。実は私もあなたと同じで婚約者がいるの」


 卒業式の直前、ジュノからそう告白されておれは頭が真っ白になった。クラスは違えど学園では頻繁に一緒にいたし、放課後や休日だってよく二人で過ごした。まさか婚約者がいるなどとは夢にも思わなかった。


「え~卒業生諸君、君たちの未来は――」


 保護者代表として挨拶をしている親父の言葉が全然耳に入ってこない。気がつけば最前列に座るジュノを見ていた。アリスという婚約者がいるにも関わらず、おれはいつしかジュノに惹かれていた。片時も離れ難く、最初の夏期休暇以降、おれは故郷に帰らなかった。もちろんアリスには申し訳ないと思う。だがおれは自分の気持ちに嘘は付けなかった。



「皆様と過ごした三年間は私にとってかけがえのないものでした――」


 壇上では卒業生代表のジュノが答辞を述べていた。彼女が言う通り、三年間の学園生活はジュノとの思い出ばかりだ。ジュノに勝利を捧げた闘技大会。学園祭の演劇では初めて彼女と口づけを交わした。占い師が言ったおれの運命の人。あれは間違いなくジュノの事だろう。


 婚約者がいるからと言っておれは簡単に彼女を諦めるのか? 否、たかがそれくらいの事で騎士が逃げてはいけない。ジュノもきっとおれ達二人の愛を貫き通して欲しいはずだ。全てを投げ打ってでも自分を奪って欲しいと思っているに違いない。


 卒業式の後、親父から祝いの品として剣をもらった。なんでも辺境騎士団で使用している火属性付与の剣らしい。アリスがどうのとか言っていたがおれにはジュノが付与してくれた愛剣がある。この剣さえあれば、どんな困難にも打ち勝つことが出来るだろう。二人の愛を邪魔する敵を蹴散らす事が出来るだろう。




 マーカスとは卒業式でお別れしたはずだった。私に婚約者がいたと知った彼はひどく驚いていたけど、彼にもちゃんとした婚約者がいる。きっと分かってくれるはずだと思っていた。だがその考えは甘かった。


 実務経験として魔法省の一年目は魔法師団の研修が課せられる。その際、王都騎士団との合同訓練が頻繁に行われた。もちろんそこにはマーカスがいる。学園の時ほどではないが、それでもやはり彼と顔を合わせる事になる。訓練中に視線を感じ振り返ると必ず彼と目が合う。なんとか笑顔を取り繕うが、得も言われぬ寒気が走る。


「やぁジュノ。仕事は終わったかい? 家まで送るよ」


 こうして週の三日くらいは仕事終わりでマーカスが待ち構えていた。


「マ、マーカスっ。そんなの悪いわよ。私は馬車で帰るから大丈夫」


「じゃあ馬車乗り場まで送ろう」


 今では彼の笑顔に恐怖さえ感じてしまう。今のところ彼はまだ婚約解消していないと聞く。だがもし婚約解消をしたなら、いよいよもって良からぬ事が起きてしまうのではないだろうか。


 私は父に頼んでサミエルとの結婚を早めてもらえないかと頼んだ。あまりに私が必死だったからか、少し困惑しながらも父はそれを了承した。


「結婚が決まったそうだね。おめでとう」


 マーカスはいつものように私の帰りを待っていた。お祝いの言葉を聞いて私は少しだけ胸を撫で下ろす。


「ええ、ありがとう。マーカスの方はまだなの? アリスちゃんももう学園を卒業したと聞いたけど」


「ああ、彼女は去年卒業したよ。おれ達も結婚する事にしたよ。親もうるさく言ってくるしね」


「まぁ! それじゃあ私達お互い新婚さんになるわね! なかなか会えなくなるのは寂しいけど」


 私は心底ほっとした。もしかしたら結婚を機にマーカスは辺境都市に帰るかもしれない。仮に王都に残るにしろ、妻帯者ともなれば迂闊な行動は慎むだろう。その時マーカスがにやりと笑った。


「安心してくれジュノ。おれはどんな困難でも乗り越えてみせる。たとえ君がダリンジャー家という束縛に抗えないとしても、おれが君を救い出して見せる」


「え……? 何を言っているの? マーカス……」


 まるで騎士の誓いを立てるかのように彼は剣を鞘から抜いてひざまずいた。そして剣の柄を私に向けて差し出した。わずかにその剣には見覚えがあった。


「ちょ、ちょっとマーカス! こんな道端で剣なんて抜いたらダメよ! 規律違反になるわよ!」


 周囲の目を気にしながら私はその剣を彼に押し返した。まさか公衆の面前でこんな事をするとは思わなかった。少し間を置いて彼は立ち上がった。そして剣を納めながら彼はふっと笑った。


「確かに軽率だったよ。でもおれの決意は分かってもらえたと思う」


 一体なんの決意なのか。しかもさっき彼が言った我が家の束縛とはどういう意味なのか。もしかしたら彼は私が無理矢理結婚させられると勘違いしているのではないだろうか。私をじっと見つめる彼に対し言葉が出てこない。その目は明らかに狂気を含んでいるように見えた。


「そうだ。一応婚姻の儀の招待状を送らせてもらうよ。じゃあおれはこれで」


 彼は一枚の封筒を渡して去って行った。中身を見ると確かに招待状が入っていた。


『来る12月15日。マーカス・バッシュとアリス・グレインの婚姻の儀を執り行います――』


 それは私達が婚姻の儀を予定してる日と全く同じ日付だった。






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