第三章 崩壊
類の言葉は、刃物よりも鋭く胸に突き刺さった。
「……君、やっぱり俺のこと好きじゃないんだろ」
放課後、校門の前。いつもの帰り道で、唐突にそう告げられた。
「努力はしたよ。でも、笑ってくれない。手を握っても、遠くにいる気がする」
彼の声は震えていた。怒っているのではなく、泣き出しそうなほどに。
私は言葉を返せなかった。返そうとすればするほど、自分の空っぽが露わになりそうで。
――私は、本当に、彼を愛していないのか。
問いを口にできないまま、背を向けた彼の後ろ姿を見送った。
その帰り道、学校の裏庭を覗くと、ミケの姿がなかった。
昨日まで毎日のようにそこにいたのに。
胸がざわついて、翌朝も、翌日も探した。けれど、ミケは戻らなかった。
ある日、通学路の交差点に小さな花束が置かれているのを見つけた。
……分かってしまった。
「嘘、でしょ……?」
膝が震え、視界がにじんだ。私を無条件で受け入れてくれる唯一の存在さえ、消えてしまった。
病院に行っても、何も変わらなかった。
篠原先生はカルテに目を落としたまま、冷たい声で言い放つ。
「彼氏を大事にできないのは、君の病気のせいだよ。普通の子なら、もっと上手くやれる」
その言葉が決定的だった。
――やっぱり、全部私が悪いんだ。
彼を愛せないのも、猫を救えなかったのも。私が壊れているせい。
帰り道、街はやけに明るく見えた。
人々の笑い声が、耳を刺す。
私には届かない光の中で、私は確かに、独りだった。




