脅威
「ま、魔王様・・・この国にはそんな歴史が・・・」
「あぁ、あったんだ。大昔にはね」
パチパチパチ 焚火の音が鳴り響く。
「でも、不可侵条約が結ばれているなら、魔女の国と戦争する必要なんかありますか?」
「ある・・・」
「なぜ・・・ですか?」
「私も和平が実現されたと思っていた・・・あの報告を読むまではね」
「あの報告?」
「"魔女の国"の潜入報告さ・・・あの報告は本当だったんですね」
後ろから声がする。
振り返ると、包帯を巻いたゼット上官の姿があった。
「上官!」
「イッ、イテテテテ・・・」
「まだ治ってないんですから、ちゃんと寝ててくださいよ!」
「大丈夫だ・・・話せるぐらいには治ってる」
ズズズッ
「うまいな、このスープ。誰が作った?」
「上官の嫁さんです。」
「あ、そうか。君は新婚だったか・・・」
「えぇ、まぁ・・・」
「それで・・・上官、潜入報告ってのは一体なんですか?」
「文字通り、"潜入"したんだ魔女の国に」
「えぇ!? それって不可侵条約を違反してるんじゃ・・・魔王様?」
「これは・・・私の罪だ」
「・・・」
「どういうことですか?」
「ほんの興味本位だったんだ。どんな国なのか、国民の暮らしぶりはどうなのか、ただただ知りたかったんだ」
「でも・・・魔王様・・・」
「分かってる! 条約違反であることも、自分で軽率だったと反省している・・・」
「・・・」
「それで、、、一体だれが潜入したんですか?」
「オ・・・オールド上官だ」
「オールド上官って、、、魔王様がなりすましていた・・・あのオールド上官ですか?」
「そ、そうだ・・・」
「あっ!・・・それでオールド上官は、今どこに?」
「・・・」
「まさか・・・魔王様?」
「死んだよ」
「!?」
「オールド上官は戻って来なかった。だがオールド上官の相棒の"鷹"は報告書と共に戻ってきた」
「鷹?」
「オールド上官は潜入任務を得意とする、いわゆるスパイだ。自分にもしもの時があった時には、せめて入手した情報だけでも相棒の鷹に預けて送る、という約束だったんだ」
「・・・」
「あの時は、こんなことになるとは思っておらず、笑って見送ってやったんだ・・・」
「魔王様・・・」
「それで・・・上官の報告書には何と?」
「"魔女の国"では、"人体合成術"が行われていた形跡があった・・・と」
「じ、人体合成術・・・?」
「人体を合成する術・・・遥か昔に途絶えたはずの"禁じられた術"さ」