軍の闇
「極秘ってどういう意味ですか・・・?」
上官二人が顔を見合わせる。
「こいつまさか・・・あのこと知らないのか?」
「そんなわけ・・・だってそれじゃこいつがワルツを殺す理由が・・・」
「どういうことだよ!一体何の話だよ!」
「どういうことって・・・そりゃあ」
上官が口どもる。
ガシッ!
「どういうことだって聞いてんだよぉおお!!!」
私は思わず上官の襟首を掴んで言った。
「グハッ!!」
「クレッシェンド、落ち着け!死んじまう!!」
もう一人の上官が止めに入る。
ドサッ
ハッと我にかえり、上官から手を放した。
「ゲホッ、ゲホッ!」
「大丈夫か!?」
「大丈夫だ・・・」
「おーい、誰かそこにいるのかー?」
遠くの方から隊員の声が聞こえた。
「おっと、ここじゃまずい。ちょっと、場所移動するぞ」
「・・・」
「おいっ! 何してんだクレッシェンド! 行くぞっ!」
「はいっ」
三人で山奥へと移動を開始した。
パチパチパチ
三人は焚火で暖を取る。
「ほらっ、クレッシェンド。お前も飲め」
ズズッ
「うまっ」
「うまいだろ?嫁さんの手作りだ」
若い上官が嬉しそうに言う。
「こいつは新婚でな、子供も生まれたばっかだ」
初老の上官が補足する。
「大変な時期ですね・・・」
ズズズッ
「それで・・・極秘ってどういう意味ですか?」
「あぁ・・・うん・・・それはだな・・・」
若い上官が少し気まずそうにしている。
「俺から話そう」
初老の上官が口を開く。
「幼い子がいるお前にとっては、胸糞が悪すぎる話だ・・・だから俺から話そう」
「お・・・お気遣いありがとうございます」
「・・・」
パチパチパチ 焚火の音が鳴り響く。
「今から話す内容は、あくまでも噂話だ。俺たちも信じたくはない」
「噂・・・?」
「あぁ、そうだ。ただの噂話・・・誰もがそう思ってた」
「・・・」
「だがワルツが殺された今、俺たちも信じざるを得ない状況になっている」
「どういうことですか?」
「お前が育った孤児院は、魔王軍が密かに人間兵器を作るために建てられたって噂だ」
「人間兵器!?それって・・・」
「文字通り、人間を兵器にする、という意味だ」
「!?・・・」
私は驚きのあまり絶句した。
「待ってくれよ・・・意味が・・・分からない」
「何で人間を兵器にする必要があるのかって?」
「戦争するからさ」
若い上官が口を開いた。
「おいっ、おれが説明するって言っただろうが」
「もう大丈夫です。ここからは私が説明します」
「まったく・・・」
「上官は連日の訓練でお疲れでしょう。昨日もろくに寝ずに火の番を」
「ちっ、嫌なとこ見てやがるな」
「どうかここは、先にお休みを。私とクレッシェンドが火の番をしていますから」
「そうかい、分ぁったよ。寝りゃいいんだろ寝りゃ。ったく、年寄り扱いしやがって」
「ちゃんと寝てくださいね!」
「分ぁったって!何かあったら起こせよな!」
初老の上官は自分のテントへと戻っていった。
パチパチパチ 焚火の音が鳴り響く。
「さ、クレッシェンド。続きを話すか」
「あ、えぇ。戦争するって・・・」
「あぁ、戦争するために人間兵器を作るって話だ」
「戦争するって、いったい誰と?」
「・・・」
「こんな平和な国で、、、まさか内乱ってことですか?」
「いや、内乱じゃない」
「内乱じゃないって、じゃあ一体だれと戦うんですか?」
「”魔女の国”だ」
「魔女って・・・あの・・・」
「お前・・・魔女の存在を知っているのか?」
「えぇ、世話になったばあさんが教えてくれました。遥か遠いところに魔女の国ってのがあるって」
「なんだって・・・一般人は知らないはずだが」
「なぜですか?」
「魔女の話は、魔王軍の中だけで代々囁かれている噂話で、民衆の混乱を招かないためにも他言無用と魔王様から口止めされているからだ」
「口止め!?」
「口止めと言っても、根拠のない噂話をむやみやたらに広めるなって注意の意味だけどな」
「なるほど」
「いずれにせよそのばあさん、ただものではなさそうだ」
「・・・」
「話を続けるぞ」
「はい」