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2時間目 道徳

「みな、体育の後で疲れているだろうが、2時間目は道徳だ。しっかり聞くように」

私は教壇の前に立ち、汗を拭きながらそう言った。


教室の一番前には黒板があり、その前に私が教壇に立っている。

教室の座席は全9席。3×3で座席の間隔は均等に空いている。


「先生、その前に良いですか?」

1列目の真ん中に座っているのは人間の子だ。

不機嫌そうに手を上げている。


「僕からも、言いたいことがあります。これはエルフへの冒涜です」

1列目の廊下側に座っているのはエルフの子だ。


「冒涜ではないわ。皆が平等に生きることを、魔王様は望んでおられるのよ」

1列目の窓側に座っているのは天使の子だ。


「そんなに足枷と手錠が嫌かね?」

カチャッカチャッ

2列目の真ん中に座っているのはゴブリンの子だ。


「まぁそう煽るなよ、ゴブリン。まだチャンスはあるだろ」

3列目の真ん中には鬼の子が座っている。


「おい、チャンスってお前・・・まだ懲りてねぇのかよ」

3列目の窓側には天狗の子が座っている。


「魔王、ぶっ殺す!」

3列目の廊下側には魔女の子が座っている。


「おい、魔王。俺様と契約しないか?」

2列目の窓側に座っているのは悪魔の子だ。


「先生、体調が・・・」

2列目の廊下側には吸血鬼の子が座っている。


「良いか、みんなよく聞いてくれ」

ザワザワッザワザワッ

「みんな、静かにしなさい」

ザワザワッザワザワッ


「静かにしろ」

ドゴォーーーーーーーーン!!!!

外で轟音が鳴り響いた。

「なにっ?!!」「きゃあ!!」「ん!?」「ひぃいい!!」

「魔王、何をした!!ぶっ殺す!!」


私は、にこやかに笑って生徒に向かって語りかけた。

「皆が静かにならないから、校庭に隕石を落としてみたんだ」


「はっ!?!?(人間)」

「バケモンかよっ?!(鬼)」

「魔王様・・・すごい(エルフ)」


「もし次に、私が静かにしなさいと言ったときに、静かにならなかった場合は、教室ごと隕石で吹き飛ばします」


「ひぃいい!それって体罰じゃないですかぁ!!(ゴブリン)」

「体罰とかいう次元の話ではないのでは・・・(吸血鬼)」

「結局、力でねじ伏せるのかよ(鬼)」

「魔王、ぶっ殺す!(魔女)」


「お前ら、よく聞けぇえ!!!!」

魔王の咆哮が教室中を轟かせる。


「・・・(全員)」


「鬼と魔女、お前らは1時間目の()()で、結託して私を殺そうとした。君たちは人の命を軽く見ている。人を殺すということの恐ろしさを知らない」


皆、怯えた表情をしている。


「おい、鬼の子。私が今からする質問に答えなさい」

「・・・」


「返事はぁあ!!!」

「は・・・はい」


「"人を殺すこと"は正しいことかね?」

「正しいか正しくないかなんて、誰も判断できないだろ」


「できる」(エルフ)


?!!?


「なぜそう思う?説明してみろエルフ」(魔王)


「殺人は・・・殺人は正しくない行為だから、道徳的ではない」(エルフ)

「もっと論理的に説明できるか?」(魔王)

「正しいことというのは、全員がそれを実行したときに社会が良い方向にいくもの」(エルフ)


「理解できるか?ゴブリン」(魔王)

「つまり、全員が殺人を犯した場合、お互いに殺し合って片方は生き残るとすると、50%ずつ人口は減少していきます。50%、25%、12.5%、6.25%、3.175%、、、最終的には一人になります」(ゴブリン)


「最終的に一人だけ残る・・・哀れな魔男の末路みたいだ」(魔女)


「黙らんかぁああああ!!!!腐った種族がぁ!!!!!」

私は思わず、魔女の首根っこを掴み、持ち上げてしまった。


「おいっ!!」(全員)

全員、こちらに敵意を向けて睨みつけている。


私はハッと我に還り、魔女から手を放した。

「ゲホッゲホッ!!」

「大丈夫か!?」(天狗)

「魔王様、なぜこんな酷いことを!?」(天使)


私は魔女の方から目を背け、下を向きながら言った。

「いいか魔女、昔の話ではあるが俺たちの種族はお前らに半分滅ぼされた。残りの国民も・・・死んだようなもんだ。それはお前も知っているだろう」


魔女が泣きながら、私を睨んでいる。

「・・・魔王、ぶっ殺す!!」(魔女)

「この子は、その件とは関係ないでしょう!」(天使)

「一度芽生えた憎しみは・・・消えることはないのさ」(悪魔)


「あぁ、悪魔の言う通りだ。憎しみは消えることはない」(魔王)

「お前らが弱いから、お前らが弱いから滅びたんだろうが!!この劣等種族が!」(魔女)


「ぐぅぬううう!!!!!!!」

私は力いっぱい拳を握り込んだ。

「先生!!!」(天使)


ガラガラッ!!!

女のエルフ(副担任)が、教室のドアを勢いよく開けた。

「ちょっと!!何してるんですか!!!?魔王様!!」


「あ・・・副担・・・」

フラッ・・・バタッ!!!


「魔王様!!!!!!」

「先生!!!」


薄れていく意識の中、私は遠い遥か昔の出来事を思い出していた。

わたしがまだ、魔王でも国王でもない、駆け出しの魔男だった頃の話を。

かつて一人の少女と交わした、叶うことのない約束を。


--時を同じくして魔女の国--

「王妃様、どこか具合でも悪いのですか?」

「いや、大丈夫だ。何でもない」

王妃は目に浮かんだ涙を拭うと、自室に戻ってしまった。

「今更じゃないか、、、今更何だというんだ・・・クレッシェンド」

王妃は窓の外の遠くを寂しそうに見た後、その場に泣き崩れてしまった。








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