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第六話

  「うう………あの~?」

  「なに?」


  僕は旅人。


  何か目的があってこうして荒野を彷徨い、国から国へと渡っているような気がするし、なんの目的もなく気の向くままに移動を楽しんでいるような気もする。


  んで、僕の後ろで可愛くさえずっているのは、エレナ。同じく旅人。……なのかな?


  故郷で親に売られ、奴隷になっていたところを僕が助けた。行くあてがないから僕について来ているだけで、望んで旅をしているわけではない。……と、思う。


  「あの~。お腹空きませんか~?」

  「空いてないとでも?」

  「思いませんよ~」


  エレナと旅をしてもう何日になるだろう。たしか今日で三十回日が昇ったから……ああ、一ヶ月か。


  「ねえ、エレナ?」

  「なんですか~?お腹空いてるから~、あんまり体力使いたくないんですよ~」


  まあ、気持ちはよくよくわかる。僕だって本当なら黙って歩いてる。


  でも、黙ってたら黙ってたらで空腹が響いて歩く気が削がれるからねえ。


  「君さ……僕について来たこと、後悔してるでしょ?」

  「………………………いえ?」


  その間がね、全てを物語ってるんだよ。


  「まあ、その気持ちはよくわかるよ。空腹だととにかくイライラするからね」

  「そのイライラで私は助けられたんですね~」


  ……なんのことかなぁ?


  「……最終的に本気でやばくなったら君、どうする?」

  「自分で自分を調理してあなたにご馳走します~」

  「僕に食人趣味はないよ」

  「でも~いくら趣味じゃなくても必要に迫られたらたべます……よね?」

  「食べない」


  ここは断っとかないとそう遠くない未来本当に僕の目の前には調理されたエレナが転がることになりかねない。


  「あなたは~、どうするんですか~?」

  「天に運をまかせる」

  「それだけですか~?」

  「まあね」


  運がよければ助かるさ。


  「でも~、もうすでにそんな状況じゃないですか~?」

  「そうかな?いや、そうだね」


  なんてったってもう20日になるからね、食料が尽きてから。

 国を追われる形でエレナを連れ立ったわけだけど、僕が背負っているかばんの食料はあっと言う間に尽きた。十日って結構持った方じゃない?と思うほど。


 そもそも、エレナの国で食料を補給するつもりだったのが、いろいろあって全然できなかった。エレナの事情に入りすぎた、と言うのが大きい原因だろうけど、もしあの国で別れてたら今頃この子は。


 「……まあ、仕方ないよね」

 「ですよね~」


 まあ、死んでいたんじゃなかろうか。主人殺しは重罪だって言ってたし。僕の判断に間違いはなかったんだ。うん、そうだそうだ。女の子一人助けれた代償が空腹なら、うんまあ、耐えられる。


 ……耐えられる、かなぁ……?


  「大きい肉の塊とか落ちてませんかね~?」

  「落ちてたら落ちてたで怖いものがあるね」


  こんな荒野に赤々とした大きな肉塊がポツリとある。しかも微妙に脈打ってたりして。


  ……伝説のドラゴンに出会うことよりもありえない。


  「でも~。それぐらいのラッキーがないと~、私達もうすぐミイラですよね~?」

  「まあね。たいへん遺憾なことだけど事実だからしょうがないね」

  「それにしては落ち着いてませんか~?」

  「君こそ」

  「私は諦めてるんですよ~」


  僕は慣れてるからいいけど、エレナは諦めていたのか。


  「大丈夫だよ、きっとなんとかなるよ」

  「ほんとですか~?10日前も同じようなセリフ聞きましたよ~?」


  むう……。


  せめて国が見えればいいんだけとね。


  「あ、」

  「エレナ⁉」


  くたり。


  エレナはついに力尽きたのかその場にへたりこんだ。


  「あ~……もう私ダメみたいですね~。国でも体力ない方だったし、ここが限界ですね~」

  「何度か疑問におもってたんだけど、君ってちょっと体力あるのにないとか言うよね」


  普通の女の子が20日間も眠る以外は歩きっぱなしなんてばかみたいなことできるはずがない。


  「え~?私徒競走でも一番遅かったし、持久走も最下位でしたよ~?」

  「君の国がおかしかったんだね。……そろそろ立てる?」

「あ~……さっきから頑張ってますけど全然、力入んないんです~。今なら何をされても抵抗できないな~なんて……」

  

  こんな状況で襲うわけないだろう。全く、エレナって意外とえっち

  「あの~、今すっっっごく失礼なこと考えてません?私、恩とかそういうの全部忘れて飛びかかりそうになりましたよ~」


  飛びかかってきてそのあと僕はどうなるのかな?多分エレナのお腹の中にいるんじゃないかと予想するのだけれど?


  「飛びかかってきて、それで体力使い果たす、と。随分と豪快な死に方だね?」

  「むう~!」


  性的な意味でも食べられてしまいそうだね?


  「可愛く唸ってもご飯は空から降ってはこないよ。……はあ、全く、どうしたものかな……」


  真剣になんとかしないと。さて、どうするか……


  「あ、あの」

  「なに?今考えてるんだけど」

  「いえ、もう考える必要はないかもしれませんよ?」

  「は?なに言って……え?」


  エレナが指さした方向をつられて見ると。


  大きな馬車が地平線の向こうに見えた。


  米粒ほどの大きさなのにやたらはっきり見えるのも、ガラゴロと遠すぎて聞こえるはずのない音が聞こえるのも、あまりの空腹に感覚が異常に研ぎ澄まされているのだろう。


  「ご~~~~は~~~~~ん~~~!」


  砂煙が見えるほどの速度でエレナが走れるのも、きっと空腹のせいだろう。そうであってくれ。あるいはギャグ補正……って、ギャグ補正ってなんだ?


  まあ、僕もそろそろ行こうか。


  あの馬車にはどんな人が乗っているのかなぁ?


  食料をわけてくれるようないい人だといいけど。


 ……ううん。幸運、なのかな?     

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