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第四十四話

  皮を剥がれたキサラは死んだんじゃないだろうかという勢いで眠りだし、それに釣られて僕らも眠った。僕もエレナも、安心した表情で眠るキサラに誘発されたんだろう。……それにしても、なんだか久々にぐっすり眠れた気がする。


  そして、次の日。僕たちは宿を出て、国の出入り口すぐの大通りにいた。道の端には昨日と同じように、いくつも死体が転がって、景観が悪いことこの上ない。道ゆく人はどういうわけか足をとめて僕らを見つめている。



  「さて、出国しようかな」

  「あれ、観光はしないんですか?」

  「……まあね」


  この国にはもともと食糧補給とキサラをなんとかするために入ったようなものだから。もちろん彼女に観光すると言ったのは方便。そもそもここ、目新しいもの無さそうだもの。だんだん人も増えてきたし、そろそろ引き時だね。


  「……ねえ、視線が……」

  「たしかに熱烈な視線だね。……ここも、全滅志望かな?」

  「す、すぐに剣を抜こうとしないでください! 心臓に悪いです!」

  「あはは、ごめんね。冗談だよ」


  ちょっとそぶりを見せただけじゃないか。


  「……アル、人が……」

  「ほら、白い目で見られちゃいますよ!?」

  「いや、ちょっとまってよ、エレナ」


  どう見てもエレナが言うような目ではないよ?どちらかというと、希望……いや、羨望に満ちた視線を向けてきてると思う。この前みたいに子供不足かな……とも思ったけど、僕たちを見る人たちの中には幼い子供もたくさんいた。


  「……エレナの言うような目じゃないと思う……」

  「……え、じゃあ、なんでしょうか……」

  「さあ?」


  いまいち彼らの意図が読めない。なんでそんな視線を僕らに……。


  「み、水……」

  「水だ……」

  「水を……」

  「水……」


  その言葉で、僕らは全てを理解する。僕らの水を狙っている!?


  「……水を、恵んでください……」

  「水を、ください……」

  「水を、」「水を……」


  水、水、と催促しながら、彼らは少しずつ、僕らとの距離をつめてくる。


  「ど、どどど、どうします!?」

  「さすがに彼らを斬るわけには……いかないな」


  彼らはただ運が悪く水が不足しているだけなのだ。そんな人達を僕は斬れない。斬りたくない。


  「……逃げよう……」

  「そうしよう。これも天運、諦めてもらうしかないね」

  「そうですね。可哀想ですけど……」


  よし。二人の了解も得たし、さあ、逃げよう。


  「あっ、水が逃げたぞ!」

  「おいかけろ!」

  「逃がすな!」


  急に暴徒化した民衆を後ろに聞きながら、僕らは走った。門なんてものはなかったので、すぐに国の外に出れた。余計なのもたくさん、一緒についてきたけどさ。


  どうする? たしかに彼らは悪くない。けど……。


  「な、なんで、とまるんですか!?」

  「考えがある」


  僕は振り返り、追いかけてきた彼らを見据える。襲い掛かったくることはなく、ある程度の距離を置いて、僕に視線を向ける。


  「み、水を……」


  彼らは僕らをどうこうする気はなく、ただ僕らが水を持っていたから、とりあえず追いかけてきた……という感じだろう。


  「ここから先に、湖があります」


  僕は湖があった方を指で示す。


  「ここから一週間ほど歩いたところですので、しかるべき準備をしてから向かった方がよいと思います。それと、水を腐らせずに運ぶ容器を持っていった方がよいでしょう……う?」


  彼らは最後まで話を聞いていなかった。湖がある、とわかった途端そっちの方向に走り出したのだ。とたんに、静かになった。


  「……大丈夫なんですか?」

  「何人かは……特に子供は持たないと思うよ。でも、何人かは絶対に辿り着く。……まあ、辿りついて終わりだと思うけどね」


  きっと、独り占めしようとして喧嘩になって、殺し合いになって……最後の一人があの湖の周りに陣地でも組むんじゃないだろうか。そして、そこで一生を過ごす。……水だけの人生だ、きっとすぐに終わるだろう。


  「……大丈夫……」

  「なにが?」

  「……あの人達は……大丈夫……」


  なにが大丈夫なんだろうか。


  「……あの人達は優しい。だから、水を巡って争うこともない。だから、仲良く、繁栄できる……」

  「そうかな?」

 「……現に、止まった私たちを、襲わなかった……」

 「そうだね。……じゃあ、きっと仲良くできるさ」


  僕はそう言って彼らに示したのとは別の方向……知らないどこかへと歩き始める。今回は補給こそできなかったけど、まあ収穫はあっただろう。


  「そうですよ! キサラさんが言うんですから、間違いありません!」

  「そうだね」


  エレナもキサラも僕に続いて歩き始める。キサラの顔は、相変わらずの表情だけど、どこか晴れやかだった。


  「さ、行こうか」

  「はいです♪」

  「……うん……」


  さあ、旅立とうか。

  

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