第三十九話
「諦めてください」
僕は死屍累々の大通りで、一人生き残った彼に語りかけた。
「ひ、ひぃ」
「あなたたちは滅びます。けれど、もし僕がここで暴れなかったとしても、滅んでいたでしょう」
まともな知識もないのに子供をたくさん欲しがるから、こんなことになるんだ。そもそも僕は彼の女は子供を産む道具みたいな言い方が気に食わない。
「ひ、ひい……」
「僕たちは国を出ます。それに当たって、一つ」
「な、な、なんですか?」
どうせこの国を滅ぼすんなら、もっとふっかけようか。
「血を洗いたいのでお風呂と、それから汚れた服を洗わせてください。新しい服と、水と食糧、テントとリュックももらいましょうか」
「アルさん、これじゃ私たち強盗か追い剥ぎですよ!?」
「……でも、そうしないと私たちは……」
そうだよ。僕らはギリギリなんだ。なりふりかまってはいられない。
「どうします? ちなみに、断ったらあなたを殺して国を荒らします」
「い、いっしょじゃないか!」
「……あ、そうでしたね。じゃあこんなこと訊く必要もないですね。さようなら」
僕はアークソードを振り上げる。この国の連中を皆殺しにしたからか、呪が弱まっている。今なら一時間持っても意識を奪われないんじゃないだろうか。
「ま、まってくれ! わ、わかった、好きにしてくれ! だ、だからどうか命だけは……!」
「……わかりました」
よかった。これで、また旅が続けられる。
それから僕たちは国中を漁って必要な物を奪って、リュックに詰めた。荷物は重くなったけど、お腹が空かずに旅できるなら、軽いものだ。
そして、国を出てすぐの荒野。
「……アルさん、ホント男の人には容赦ないですね」
「そう見える?」
「もし彼らが女性だったら、どうしてました?」
むう、むずかしい質問だな。
「たぶん、殺しはしなかったんじゃない?」
「あなた、意外と女尊男卑なんですね」
「そう?」
隣のキサラが頷く。彼女も少ないながらも荷物を持っている。特につらそうにも見えないから、大丈夫だろう。
「キサラまで……。まあ、別にいいけどさ」
「彼らには少しくらいは同情してあげてもよかったんじゃないですか? なにも殺すことは……」
「じゃあ、君たち、一日に一人の子供を産め、とか言ってくる連中と子作りしたいかい?」
「わ、私はあなた以外とはしたくありません!」
やれやれ。またそんな冗談を。
「……でも、エレナ……彼が守ってくれなかったら、私たちは今頃……」
ま、多分裸に剥かれてる頃だろうね。
「……そのことに関しては、ありがたいと思ってます。けど……」
「じゃあ今からでも行ってくる?」
エレナは首を振った。
「いえけれど、……少し、殺すのは賛成できません……」
「……そう」
エレナはあんまり納得できないみたいだった。
「キサラは?」
「……私は、あの時、捨てられると思った。あの人たちに、人身御供として捧げられるものだとばかり……」
ああ、それで舌を噛もうとしたのか。諦めるのが早いと思ったけど、信用されてなかったんだ。
「……だから、守ってくれたことが、うれしい……」
顔を綻ばせて、キサラは言った。
「……もう。キサラさん、少しはアルさんを信じてあげたらどうですか?」
「……わかってる。私は、もうアルを疑わない……」
ううん、信頼してもらったのはうれしいけどさ。そんな全幅の信頼は重いよ?
「信頼はありがたいけど、警戒は忘れずにね? 君はかわいいから、油断してると襲っちゃうよ?」
「……あなたが望むなら……」
……予想した反応と違いすぎる。どうして。君、僕に怯えていたんじゃないのか?
「……ふうん。キサラさんは勇気ありますね~」
「……ううん。私は、裏切られてもいい、ただ、信じたくなっただけ……」
ああ、もう。キサラはいちいち言うことが重いなあ。ま、それも可愛いんだけど。
「じゃ、次の国を目指して、進もうか」
「はい!」
「……うん……」
新しいリュックとか食糧とかも手に入った。少しだけ良心が痛まないでもないけど、準備は万端。
さあ、旅立とう!




