第三十七話
次の国に着いたのは、夜になってからだった。というか本当に着けるとは思っていなかった。
「狭い国ですね〜」
「そういうことは言わない方がいいんじゃない?」
「……同意……」
特に入国審査とかはされなかったけど、それでも門番さんには怪訝な顔をされた。
女の子が二人、男が一人のアンバランスな組み合わせだ、不審に思うのは無理はない。
「……門番が……訝しげにしていた……」
「まあ、事情を知らない人が私たちをみたら驚きますよ」
「どうして?」
「だってどうみても女の子三人組にしかみむぎゅっ!?」
……。
「……エレナ? どうしたの? 続きは?」
「ご、ごめんなひゃい!」
「怒ってないってば。うん、君が僕をどういう目で見てるのかはよくわかったよ」
「みゅ〜!?」
キサラが何事かと怯えてるけど、無視してエレナの顎を締め上げる。
「みゅ、い、いひゃいいひゃいいひゃいです! ゆ、ゆるひて……」
僕は首を振る。
「君が僕を女の子みたいだというのなら……君に、僕の性別を体の奥まで、心の底まで刻み込んであげようか?」
「むぐ~っ!?」
目に涙を溜めて許してくださいと懇願するエレナ。
「……ま、次から気をつけてね」
「ぷはぁ! ……はい」
真剣に反省しているようなので、僕はエレナを解放する。
「……」
ふと、キサラに目を向けると、彼女は完全に怯え切っていて、エレナの影に隠れてしまった。エレナは細っこくてちびっこいのでまるで隠れれてないけど。……というか、今のはちょっとやりすぎたかな。少し反省。
「君は、僕の性別をちゃんとわかってるよね?」
「……うん……乱暴なところは、男らしい……」
彼女はコクンと頷いた。乱暴だと言われて、少しだけ胸に痛みが走る。……その通りだから何も言えないけど。
「……あなたは……誤解されるのが嫌……?」
「大嫌い」
語気を強めて断言する。
「……そう……」
「というか、そんな容姿だから誤解されるんですよ。改悪したらどうです?」
「……面倒くさいよ」
両親からもらった顔を変えるのはどうにも気が引ける。もう顔も憶えてないけど。それでも、産んでくれた恩は感じてるから、一応恩に報いる感じで。
「でもでも、あなたの容姿、きっとこの国だとマイナスにはたらくと思いますよ?」
「なんで君にそんなことがわかるの?」
「周りをみてください」
言われた通り、周りを見る。
レンガ造りの家が立ち並ぶ大通り。街頭には等間隔で灯りがともり、ある程度は明るい。人の姿はまばらだけれど、夜にしてはかなりいる方だろう。
「……おかしなところはないよ?」
「そう思います? なら、彼らの表情、よくみてくださいよ」
「……」
キサラと僕は言われた通り道行く人々の顔を見る。変なところはない。僕らのことが珍しいのか、奇異と羨望と渇望の視線を向けている。
……ん?
今、一つおかしなところがあった。奇異と羨望はわかる。なんで渇望の視線を向けてくる?
「……そういうこと……」
「キサラ、何かわかったの?」
「……」
何かに怯えながら彼女は頷いた。どうかしたのだろうか?
「……明日になったらもっとよくわかると思いますよ?」
「ううん……?」
僕はかすかな疑問を疑問のままにしながら、とりあえず宿屋を探す。国の入り口から近いところに、国営の宿屋が見つかった。
「……ま、あそこにしようか」
「はいです♪」
「……」
いつもは宿屋に入る前は安心できるのに、今日ばかりはなぜか安心できなかった。むしろ、警戒心が高まるばかり。
どうしてだろう、と思いながらも、僕は宿屋に入って、部屋を二つとった。夜遅い突然の来訪にも関わらず、宿屋の主人は快く泊めてくれた。
……なんだろう?
部屋についてからも、僕の疑問は晴れなかった。




