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第三十四話

  「あの、アルさん」

  「なぁに?」

  「お腹空きました」

  「もう?」

  「あれからもう十日ですよ!?」

  「……あ、そうだったね」


  エレナを襲ってから十日がすぎた。その間、訓練は一切していない。


  「というか、どうしてあれ以来襲ってこないんですか?」


  なんか、果てしなく誤解されてる気がする。間違ってはいないけど。どうして訓練だと言ってくれないんだ?


  「いや、お腹空くでしょ、動いたら」

  「そ、そんな、動いたら、だなんて……」


  なんか普通に言ったはずなんだけど、勝手に恥ずかしがってるし。

 それにしても、食糧なしで十日。水はなんとかしのいでるけど、ここ2日はそれにもご無沙汰だ。早く次の国を見つけないと、冗談抜きで干からびる。


  「あの、またレナさんのときみたいに馬車が通ったりとか……」

  「ないね。間違いなく」

  「うう……」


  エレナは不安そうに囀る。


  「……まあ、なんとかはなりそうだけど」

  「え、どうしてです?」


  僕ははるか前方を指差した。

  エレナはその方向を注視した。


  「……人、ですか?」

  「四人組だね。女の人を連れてる」

  「え、連れてるって、あれで?」

  「プレイかもしれないじゃないか」

  「ありえませんよ……」


  その四人組は、一人の女性の首に輪っかをつけて、鎖で繋いで連れていた。これだけでなんか四人の生態がわかるってものだよ。


  「ようようよう! 旅の方」

  「こんにちは、旅の方」


  女性を連れてるリーダーらしき男が、僕に挨拶をした。僕も普通に挨拶する。


  「随分と可愛いのを連れてるねぇ。彼女かい?」

  「あなたこそ、きれいな女性を連れていますね」

  「ああ? こいつか?」


  彼は鎖を引っ張った。くぅ、と女性が小さく呻く。


  「こいつはさっき潰した村で手に入れた戦利品だよ。ヤって遊んでから売ろうかと思ってんだけど……」

  「そうですか。こっちも、だいたい同じようなものです」


  わざとぞんざいにエレナを指差す。


  「へえ。兄ちゃん、綺麗な顔して外道だねえ」

  「あはは、それほどでも」


  愛想笑いをしながら、僕は女性を見る。目立つピンク色の髪の毛に、桃色の瞳。背は高く、どことなく雰囲気が高貴だ。


  「……ん? どうしたこいつばっかりみつめて。惚れたか?」

  「……ええ、どうもそのようです」

  「そりゃあいい! 兄ちゃん、こいつを買うか?」

  「ええ。いくらです?」

  「ああ、そうだな……」


   彼はおもむろに自分の胸をまさぐって、何かを探す。


  「もしかしてお高いので?」

  「いやいや、どうせ二束三文で売り飛ばそうと思ってたところだよ」

  「そうですか。でおいくら?」


  再び取り出された手には、ナイフがにぎられていた。……ふうん。そういうこと。


  「お前の命だけで、十分だ!」


  僕は冷静に、果てしない怒りとアークソードに身を任せた。いいかい、エレナと女の人は斬っちゃダメ。他の連中は……。


  好きにしなよ。


  「ひっ」


  エレナの息を飲む声が聞こえた。











  





  



    ……血の匂いが酷いな。


  「エレナ、大丈夫?」

  

  後ろを振り返って、返り血を浴びて真っ赤に染まり、腰を抜かしているエレナに手を差し伸べる。


  「ひ、ひっ……!」


  もちろん怯えて後ずさられた。まあ、いつものことだから気にしないけど。……温泉近くにあるかなぁ……。

  

  「君は、大丈夫?」


  今度は女性に声をかけた。地面に座り込んで、なんだか目の前で起きたことが信じられない、っていう顔をしているね。怯えさせるかもしれないけど、僕は手を差し伸べた。


  「……あ……」


  彼女の喉から、鈴のような声がした。おや、かわいらしい声。


  「どう? 大丈夫?」

  「……あ、あなたは……?」


  僕のことが怖いんだろうけど、それを悟られたくない、って感じだね。隠したいんなら知らないふりしてあげるけどさ。


  「僕はアル。そこのエレナと一緒に旅してるんだ。君は?」

  「……でも……」

  「ああ、さっきの? 嘘も方便、そっちの方が信用されるかなって。結局、無駄だったわけだけど」


  僕は地面に目を落とす。バラバラになって八つ裂きになった死体が四つ。……。


  「アルさんなにやってるんですかまさかそんなこと私絶対嫌ですよ聞いてるんですか!?」

  「まくし立てないでよ。でも、仕方ないだろう?」


  僕はその肉をいくつか拾う。内蔵をよけて、足とか、手とかを拾う。


  「……まさか……」

  「多分そのまさかだよ、お嬢さん」

  「……でも……」

 「あはは、お腹空いてるからね。仕方ないよ」


  僕は血だまりの中から布を何枚か見繕うと、拾った肉を包む。


  「……私、絶対嫌ですよ」

  「餓死するよ?」

  「獣として生きるよりも、人間としての尊厳を保って死にたいです」

  「餓死する人間ってメチャクチャ醜く暴れ回るって話だよ?」


  もちろん根も葉もない嘘だ。


  「……でも、それでも嫌なものは嫌です」


  エレナは強硬だった。説得すればなんとかなるだろうけど、僕もこんなやつらは嫌だしなぁ……。


  「わかったよ。あきらめる」

  

  僕は肉を捨てた。はあ。せっかく見つけたのに。


  「……食べないの……?」

  「まあね。さ、立って」


  差し伸べた手を無視して、彼女は一人で立ち上がった。


  「なかなか元気あるみたいだね。名前は?」

  「……キサラ……」

  「キサラ、ね。よろしく」 

  

  僕が手を伸ばすと、エレナがやってきて、同じように手を差し伸べた。


  「よろしくです、キサラさん! 同じ助けられた者同士、仲良くしましょうね!」

  「……」


  キサラは何も言わずに、僕らの手を握った。その表情は少しだけぎこちなかったけど、さっきよりは確かに、明るい表情をしていた。


  またひとり、旅の道連れができた。……うれしいな。

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