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第三十話

  「じゃあさ、僕は君を守らない」

  「え?」


  僕は、エレナを男とは逆の方向に突き飛ばす。受身もとれず、エレナは倒れた。


  「っ……。な、なにするんですか?」

  「僕は君を守らない。これで君は自分を守らなきゃいけないね」


  僕はアークソードの刀身を持ち、空いた柄を、エレナの前に突き出す。危害はないはずなのに、彼女は怯えて後ずさる。


  「さあ、立って、この剣を持つんだ。君は自分を自分で守らなきゃいけない。わかるね?」


  エレナは立ち上がった。けれど、アークソードを持とうともしない。


  「持つんだ。さあ」


  彼女はふるふると首を振る。僕はエレナに斬らせるのを諦めた。もう一度柄を持ち直す。


  「……じゃあ、どうやって君は自分を守るの?」

  「それは……」

  「僕が君の代わりにこいつを、斬ってあげようか?」

  「そ、そんな! 私はお父さんを斬ろうとなんて思ってません!」

  「でも、斬らないと守れないよ?」

  「……守れなくても、かまいません」


  エレナはぼそりと言った。


  「……ふうん。そう。死にたいんだ」

  「違います!」

  「……ああ、もう」


  なんで君は頑なにこの男を守ろうとする?僕を殺そうとするのはまだしも君を殺そうとしたんだよ?それなのに、どうして。


  「……わかったよ」

  「本当ですか!?」

  「うん」


  僕は頷いて、落ちているナイフを拾って、男に渡す。


  「な、なにをするんですか?」

  

  不安そうに訊いてくるエレナの声は、聞こえない振りをする。


  「さあ、自害してください」

  「なっ……」


  僕は男を睨んで、ナイフを握らせる。


  「あなたに最後のチャンスをあげます。まだ自分が父親でいたいなら、そのナイフで自分の喉を突いてください。さもなくば殺します」

  「き、きさま、今、エレナにわかったと」

  「ええ。絶対にあなたと戦おうとしないことがわかったのですよ。……でも、この剣を握らせれば、嫌でもあなたたちを殺すようになります。実の娘に殺されるのがお望みなら、そうしますが」


  僕はアークソードを見せつけて脅す。


  「は、話が違います! わかった、って言ってくれたじゃないですか!」

  「違わないよ。君が父親を斬れないということが分かった、と言ったんだ」

  「……っ!」


  ショックを受けたように、エレナは顔を曇らせる。


  「……」


  ああ、もう。可哀想になってきた。こんな顔をさせないために、僕は今まで戦ってきたのに。これじゃ、本末転倒だよ。僕はなにやってるんだか。


  「……冗談だよ」


  僕は男からナイフをひったくる。


  「さて、ここはまず逃げることから考えましょうか」

  「え? あの、ほ、本当に……?」

  「うん? 嘘にしてほしいの?」


  すごい勢いでエレナは首を振った。


  「まず、あなたたちには脱出経路の確保を。僕らはレナ……旅の連れを助けにいきます」

  「あ、ああ」


  男は隣で人形みたいに黙っていた女の人をつれて、向こうの控え室へ消えた。

  と、同時。

  会場が、怒号で包まれた。


  「jpgjwpjdjqfcliolri!!!」


  意味のわからない言葉がたくさん投げかけられる。

  意味わかんないから、怖くもなんともないけど。


  「あ、あの、殺されませんか……」

  「ん?大丈夫じゃない?」

  「どうしてそんなことわかるんですか!?」

  「んー……」


  ここの死刑囚皆殺しにしたから、だなんておおっぴらに言えないしなぁ……。


  「まあ、なんとかなるんじゃない?」

  「そんな楽観的な……」

  「ま、早くレナを助けに行こうか!」

  「はい!」


  僕らは、レナの牢屋に向かった。




  控え室から牢屋の前までは、そう遠くない。が、狭い廊下にたくさんの人間がひしめき合って僕らを殺そうとするから、なかなか進めない。


  「ったく!とっとと逃げてよ!死ぬだけだよ!」


  アークソードはこういう狭いところじゃ僕を乗っ取ろうとはしない。狭いところじゃ思いっきり暴れられないからだと、僕は見当をつけている。それに、こいつは人を斬れたら満足だから、今の状況でも不満はない。だから、僕を乗っ取らないんだろう。今が一番呪いが必要なのに。


  「あ、あの、だ、大丈夫でしょうか……?」

  「レナならきっと大丈夫!」

  「いえ、あなたが斬っている人たち……」

  「運がよければ助かるんじゃない!?……っこの!」


  また一人斬って、先に進む。と思ったらまだまだ出てくる。もう立ちはだからないでって言ってるのに!


  「……っ、どいてくれ!」


  血を浴びながら、僕は進む。

  人を斬りながら前に。死体を作りながら、先へ。

  そうして進み続けて、僕は平静をレナの牢屋に辿り着いた。


  「レナッ!」


  レナはちょうど殺されようとしていた。

  彼女の命を奪わんとする凶器はネルが握っていた。


  「ネル。今すぐ彼女を離せ」

  「それは無理な相談というものです。私には私の仕事がありますから」

  「離せ。さもなくば」

  「殺しますか?けれど、私がこの女性を斬るのと、あなたが私を斬るのと、どちらが早いでしょうかね?」

  「……」


  ネルはもう剣を構えていて、すぐにでもレナに刃を振り下ろせる。対する僕はネルに近づかなければならない。この差は大きい。


  「……レナ」


  助けるから。絶対に。


  「た、助けて……」


  レナはネルに背中を押さえつけられ、身動きが取れないようだ。どうすれば……。


  ……。

  一つ、思いついた。でも、こんなこと……でも、これしかない。


  ……。ごめん、レナ。


  僕は、覚悟を決めた。




  

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