第三話
「にゃわあああああああああああああああああああああああああ⁉」
僕は耳元でそんな絶叫を聞いて目覚めた。
「どうしたのさ、エレナ?」
「ど、ど、どうしたのさじゃありません!な、なんであなたが私の隣に……!」
「そんなことよりさ、気持ちよく眠れたかな?」
「き、き、ききき気持ちよく⁉そ、そそそそそれはっ!」
あ、ついからかっちゃった。……まあ、面白いからしばらくはこうしてみるかな?
「僕はゆっくりとぐっすりと眠れたよ。眠る前に運動したからね」
「うううう運動⁉」
その結果は今でも荒野に転がっているとは思うけど。嘘は言ってない。お昼だってちゃんと『眠る前』だよね?
「君もシャワー浴びたら?昨日色々したから汚れてるかもしれないしね?」
「い、色々⁉よ、汚れて⁉」
もちろん追いかけられた事を言っているのだけれど……ここまで予想通りの反応だと、面白いを通り越して申し訳なくなってくるね。止めるつもりはないけど。
「まあ、冗談はさておいてシャワー浴びてきなよ。返り血は君にかからないようにしたけど、匂いはついたかもしれないからね」
「じょ、冗談だったんですか~?よ、よかった……。じゃ、じゃあお言葉に甘えさせて貰います」
エレナはそう言ってシャワールームに入っていった。
服がないと彼女が喚き、タオル一枚の姿で僕の目の前を通ったのはほんの数十分後の事だった。
だから、そんな風に隠さなくても、僕は何もしないって言ってるのにね。
「もうっ!予想できてたなら言ってくださいよ!恥ずかしい思い私にさせて楽しいですか⁉」
「うん。……あ、いや全然」
「もう遅いです!……もう」
シャワーから上がって、服を来たエレナと僕は部屋から出て、食料の補給をするため買い物に出かけることにした。
ロビーまでくると、歓楽街らしいネオンの光が朝だと言うのについている。この国は本当に特殊だね。
「お客様」
「なに?」
街に繰り出そうとした時、受付の男性が僕を呼び止めた。
「失礼を承知でお訊きします。その女性はどちらで?」
「どちらで、とは?」
エレナは自分が話題になっている事に気付いてはいるだろうけど、どんな話題がを計りかねているようだった。
「いえ、たいした事ではないのです。ただ、ミケーア商会がこの女性と同じような容姿をした奴隷を所持していたので。お気に触ったのなら失礼しました」
…………
「いや、気にしてないからいいよ。それと、この子は奴隷じゃないよ。どこにも刻印がなかったからね」
大抵の国では奴隷には奴隷である証として刻印を押すと言う習わしがある。刻印と言われて疑問を持たなかったところをみると、この国だって例外ではないみたいだな。
「そうですか。……大変失礼しました。なにぶんミケーア商会の人間が三人ほど、国外へ出たまま帰ってきていませんので」
「そう。大変だね。まあ、そういう事情があるなら仕方ないね。……じゃ、僕たちは行くから」
「はい、行ってらっしゃいませ」
僕はホテルを出た。エレナもついてくるけど、どこか不安そうだ。
「……あ、あの、大丈夫でしょうか?」
「何が?」
「私によく似た奴隷なんて……ぞっとします」
「どうして?なにか害があるわけじゃないでしょ?」
「でも、奴隷ですよ?」
「奴隷は嫌い?」
「好きな人なんて、いるんですか?」
「……さあ?」
言葉を濁して誤魔化す。明言を避けたのには理由があるわけだけど……それをこの場で言っても意味がない。
「……ねえ、君の家に行きたいのだけれど、構わないかな?」
「ふえ?」
よっぽど予想外だったのか、エレナは可愛らしい疑問符を頭上に出した。
「いいの?ダメなの?どつち?」
「え、そ、それって、両親に挨拶とか、そ、そういうのですか?」
「……さあ」
「さあってなんですか⁉さあって⁉」
「まあ、そうなる可能性もあるかな、って思っただけだよ」
「もう、はっきり言ってくださいよ~!期待しちゃうじゃないですか!」
「あはは、ごめんごめん」
でも、きっとはっきり言ったら言ったで君は泣くのだろうね。
一瞬口に出しかけた言葉を飲み込んで、エレナに先を促す。
「さ、行こうか」
「はいです!」
期待に胸膨らませ、エレナは自分の家へと向かう。
……ごめんね、エレナ。
僕は心の中でもう一度謝った。
きっと彼女の期待は帰るまでしか続かないと予想してながらも、僕は帰るよう促した。
ごめんね、エレナ。
何度も何度も、僕はあやまった。
言葉にしないと意味はないと。知っていながらも。




