第二十七話
呪の剣。
痛みと衝動を僕に与えて、力と暴力を周りに振りまく闇の剣。
災いしかもたらさないはずの災剣だけれど、僕には必要なものだった。もしこれがなければ、僕は何もできなかっただろうし、何も守れなかったと思う。
「の、呪の剣?」
「そう。柄を握ってしばらくしたら体を乗っ取られて暴れ回る。一応敵味方の区別はできるけど、まあ、一定の条件が整ってないとダメだから」
すこしでもたくさんの人間を斬りたいカースソードは、相手が一人二人だと味方も一緒に斬っちゃう。けど、十人百人だと、まず味方を斬る事はない。その線わけは微妙なところだけど、エレナが助かっているところから考えると、三人斬れたら満足みたいだ。
「で、でも、あなたジークさんに斬りかかってた……よね」
「まあ、呪が発動するのには結構かかるから」
だいたい三分から十分ぐらい。使いたいときは早く、使いたくないときはゆっくりになるのがまだ救いなのかもしれない。
「そんな剣を、どうしてあなたみたいな人が?」
「君が僕をどう見てるかはしらないけど、この剣は必要だったんだ」
過酷な旅を続けるには、時として冷酷にならないといけない。僕には、それができなかった。斬らなきゃいけない時に、斬れない。それじゃだめなんだ。
「そ、そんな」
「事実、この剣のおかげで、君らはこうして生きているわけだよ」
「……」
レナはそれ以上言えず、黙りこくる。
「……少しだけ、意地悪だったかな。ごめん」
何も話そうとしないレナに、僕は罪悪感を感じて謝った。
「いいわよ。でも、できることなら、もうその剣、使わないでね」
この剣を使うな?できることなら使いたくない。でも、ぼくはこの剣を手放せないんだ。それに、まだ僕は手放したくない。
「……無理だよ」
少なくとも、ここにいる間は、使い続けなきゃいけない。
「……そうなの……」
レナは不安そうに言う。僕はこの表情を晴らしてあげたい。笑顔にしてあげたい。そのために、僕は。
「……じゃ、次の試合があるから」
試合、なんて言ってごまかしたけど、僕はまた、人を殺す。
「……いってらっしゃい」
そう言ってくれたレナの声は、けして明るくなかった。
休憩が終わって、二試合目。
「……どうして君が?」
控え室には、エレナがいた。
「どうしてもあなたの隣にいたい、と言うので」
質問に答えたのは、ネルだった。君には聞いてない。エレナはぎこちない笑顔を浮かべて、僕を見つめている。
「どうして君が?」
「私、嫌なんです」
「何が?」
「私、私の命が私以外の人に握られるのが、嫌なんです」
「それで?」
「だから、あなたと一緒に」
「僕に殺されるかもしれないよ?」
僕はアークソードの柄を握って脅す。けれど、今までみたいにエレナは怯えなかった。
「いいですよ?私、もともとあなたのですから。殺したかったから、殺してください」
「……ネル、いいのかい?」
助け舟を求めるように、僕は言った。
「かまいませんよ」
「………使えないやつ」
小さく僕はつぶやく。
「は、なんと?」
「なにも。さあ行こうかエレナ」
「はい!」
僕はエレナを連れて、コロシアムへ。
また、人を殺すんだ。もしかしたら今度は、エレナかもしれない。
……そんなことにはならないさ。させないよ。させてなるものか。




