表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/48

第二十五話

  「よく眠れましたか?今日は頑張ってもらわないといけませんから、睡眠不足はいただけませんね」

  「眠れたよ。僕は大丈夫」


  眠れないまま迎えた朝、僕はネルに連れてこられて小さな部屋にいる。

  やはり部屋の材質はコンクリートだが、牢屋とは違って、この部屋にはベンチ一つ、それだけしかなかった。牢屋に続く扉と、あともう二つ、扉があった。


  「ここは?」

  「控え室です。コロシアムは広いですから、控え室でもこれぐらいの広さを持つんですよ」


  なんだか遺跡の存在を鼻にかけたような口調だった。


  「このコロシアム……遺産だよね?」

  「ええ、そうですよ。過去の偉大な、科学と魔法の結晶です!すばらしい!鬱陶しい森なんかとは違って、なんて壮大なんだ!……そうは思いませんか?」

  「僕にとっては、……いえ、そうですね」


  僕にとっては森も十分遺跡だ。とは、言えなかった。機嫌を損ねてもいみはない。


  「ふふふ、では、キリキリ戦ってもらいましょうか!最初の相手は我が村一の犯罪者、ユノです」

  「君の村の人と?」


  たしか、この戦闘は殺してもいいんだよね?それとも、ただの小手調べだから、殺すな、ってこと?


  「ええ。百の死体をただ力試しのためだけに作り上げた、怖るべき人間です。死罪は免れませんが、何分実行する人間がいなくて」

  「死刑執行人になれと?」

  「ええ。不服ですか?」

  「まさか。……同じような人がいるなら、一緒にコロシアムに出してよ」

  「バトルロイヤルにするつもりですか?認めませんよ?」

  「違うよ」


  死刑執行人になれ?いいよ、なってあげる。だから、あの子たちに、手を出さないで。


  「僕が一人で、そいつらと戦うよ」


  ネルの視線が、怯えたものになった。


  「……は、はい」

  

  ネルはそのまま、アークソードを置いて、右の扉……多分スタッフ用だあろう扉から、控え室を出ていった。


  「護るんだ」


  あの子たちを。


  「守らなきゃ」


  あの二人を。


  「……」


  覚悟はできた。殺す覚悟も、殺される覚悟も。だから。


  「……皆殺しだ」


  アークソードを手に、僕は待つ。敵と相対する時を。






  「……あなたの要望通り、囚人全てを、コロシアムに集めました。……では、ご武運を。ちなみに、一回でも負けたら、お二人の命はないと思ってください」

  「わかってる」


  ネルが扉を開けて、僕に行くよう促す。僕は逆らわずに、扉の向こうへ進む。

  殺されるかも、とはなぜか思わない。殺される気が、まるでしなかった。なぜか、アークソードを握り締めた時から、勇気が、覚悟が、溢れ湧いて出る。


  「行ってきます。お楽しみを、と伝えてよ」

  「誰にです?」


  ネルが扉を閉めて、僕の退路を絶とうとする時、僕はふと思いついて声をかけた。


  「僕の戦闘を見物する人たちに」


  どうせ、見世物にでもするつもりなんだろう。猿回しの猿になってあげる。だから、後悔しないでよ?


  「……わかりました」


  僕を、選んだことを。









  コロシアムに入った。かなり広く、一面砂と土。離れたところにたくさんの人影……彼らが、戦闘相手だろう。それにしても、地面が一日も離れていないのに妙に懐かしく感じる。荒野を延々歩くのは嫌だ、と思っていたのに、実際離れてみるとこうも懐かしく感じるなんて。

  コロシアムの周りには、観客席だろうスペースがあり、そこには人がすし詰め状態で座っている。こんなにも人がいるなんて、思いもしなかった。


  「〒・$¥・<÷€€÷3>・〆+〒¥+○☆♪→!!」

  「÷〒・%$$°=×\^々÷○!?」


  言葉が通じない、というのはひどく煩わしい。だって、脅すことも、騙すこともできない。成正攻法で行くしかなくなる。だから、嫌だよ。


  「……ごめん」


  僕はアークソードを握る手に力を込めた。さあ、アークソード。いつもと同じ命令だ。絶対に、絶対に……



  絶対に、容赦するな。


  僕はアークソードを振りかぶった。


 僕が覚えているのは……そこまでだ。



  










   何人も、倒れている。たくさんいて、いっぱいの歓声をあげていた人たちも、黙りこくって僕を見ている。まるで賞品のように飾り立てられたエレナ達も、僕を見ている。


  皆が一様に、僕を恐れてる。


  「ネル」

  

  僕は彼の名前を呼ぶ。離れてるけど、静かだからあまり大きな声でなくともよく通る。


  「……な、なんですか」


  ネルの声は、怯えているようだった。その表情には、とんでもないのを連れてきてしまった、と書かれていた。


  「僕は、合格?」

  「はい?」

  「僕は、君たちを楽しませれた?エレナ達に手を出さない?」

  「も、もちろんですとも。あ、あなたは十分、私たちを楽しませてくれました……」

  「うん、でも、まだ足りないよ」

  「え?」

  「まだ、まだまだ足りないよ。もっといるんでしょう?わかります。あの壁の向こうに、敵がいる。さあ、彼らを出してください。僕は戦う。僕は殺す。だから、早く」


  アークソードが、喚くんだ。殺せって、殺し尽くせって。


  「早くしないと……暴れるよ?」

  「い、いいんですか、こ、この二人がどうなっても」

  「どうでもいい」


  僕が即答したのをみて、ネルは大きくたじろいだ。敵はどこ。早く、早く。


  「し、正気に戻ってください!わ、私たちを守ってくれるって、言ったじゃないですかっ!」

  

  その声が、僕を現実に、というかアークソードから引き戻してくれた。


  「………僕は、なんてことを」


  真っ赤に染まった全身と、地面をみて呟く。僕は、なんてことを。やりすぎた。やりすぎてしまった。僕は、僕は。


  もう二度と、あの声には耳を貸さないと、決めていたのに……。  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ