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第二十四話

「どうでした?彼女、怯えていましたか?」

  「いや、全く」

  「なんだ。つまらないですね」


  まあ、あの子の気丈な振る舞いは無理をしているんだろうけど、それを教える義理はない。


  「次は黒髪の方に会いますか?」

  「……そうするよ」


  殺されかけたり脅されたり告白されたりと、彼女とはいい思い出がないけれど、悪い人ではないのからね。


  「そうですか。では、ごゆるりと……」


  ネルに見送られながら、どうしてこうも信用されているのかを考えてみる。


  カッカッカッ……


  僕の足音が響く。

  多分、ネルは僕が彼女たちと逃げたり、彼女たちだけ逃がしたりしない……もしくはできないだろうと思っているのだろうね。どうしてそんなこと思えるのか、不思議ではある。


  「大丈夫、レナ?」


  レナがいる牢屋についた。声をかけると、やつれた表情のレナが、牢屋の奥からこちらにでてきた。牢屋越しに向かい合う。


  「大丈夫……よ」


  レナは疲弊していた。それを必死に隠そうとして、隠し切れていない、そんな雰囲気。


  「随分と疲れているみたいだけど……大丈夫?何かされた?」

  「いえ、なにも……。私にはみんな紳士的に接してくれるわ」


  みんな。もしかして大きな顔の仮面を被った、ネルの仲間なのだろうか。


  「よかったじゃないか」

  「よくないわよ……。たしかに、紳士的だけど、なんだか、エサを見るような目で……。気が気じゃないわ。いつ食べられるか……」


  とはいうものの、レナは気落ちした様子を見せようとはしない。


  「食べられやしないよ。僕が彼らに協力している限りはね」

 

  やっぱりレナは大人の女性だから、エレナには言えないようなことも、すらすらと言えてしまう。


  「協力?まさかあなた私たちを……」

  「違う違う、僕は戦うだけだよ」

  「戦うですって?どういうことよ」


  急に心配したような表情になるレナ。


  「いや、そう難しいことじゃないんだ」

  「それでも戦うなんて……」

  「大丈夫。僕、強いから」


  今のところ武器も返してもらってないからなんにもできないけど、アークソードがあれば、なんとかなる。


  ……多分。


  「……ね、ねえ。もし、その、私たちと戦うことになったらどうするの?」


  そんなことないよ、と言いかけて、やめる。よく考えたらネルの言う事なんて信用できないし、楽しむために戦わせるなら、きっと最終的には彼女たちと戦わなきゃいけないことになるだろう。


  「その時は」

  「私を斬って」

  「……」


  レナは、迷いなく自分を斬れと言った。


  「痛いよ?」

  「あなたの枷になるくらいだったら、死んだ方がマシよ」

  「……」


  自己犠牲的な愛情なんて、僕は欲しくない。


  「じゃあ、そうさせてもらうよ」

  「ええ。そうして」


  なんで、そんな風に答えるの?僕は、期待してたのに。君が、死にたくない、って言ってくれるって。こんな風な言い方をしたら、僕は。


  「……じゃあね。そうならないことを、祈ってるよ」

  「ええ、祈ってるわ」


  誰に?


  むしょうに、そう訊きたくなった。まさかレナ、神様なんて、言わないよね?いるかもどうかもわからない、いてもなんの役にも立たない、そんな何かに、どうして期待して、祈るの?


  僕が祈るのは、神じゃない。


  どこかにある運命に。いつか見るであろう未来に。そして、それら全てを切り開く、僕らに。


  「……待っててよ。僕は、……戦うよ」

  「いってらっしゃい」


  僕は、牢屋を後にした。


  「どうでした?彼女は」

  「少し落ち込んでたよ。仕方ないだろうけど」


  僕はぶっきらぼうに言う。


  「ネル」

  「なんでしょう?」


  僕は自分の牢屋に向かって、ネルと歩く。自分の牢屋に自分で向かうだなんて、僕は何をやっているのだろう。いつもなら、そう、エレナを連れていなければ、レナと出会っていなければ、ネルを殺して、立ち向かってくる連中皆殺しにして、是が非でも逃げ出していただろうに。それをしないのは、ひとえに彼女たちのせいだ。

  ……いや、彼女たちのおかげ、かな。


  「僕の武器、返してもらえるかな?」

  「かまいませんよ?ただし、それはコロシアムの中だけです」

  「ちなみにだけど、あれ、どうしてる?誰にも触らせていないだろうね?」

  「なぜです?」

  「あれは、僕以外になつかないから」

  

  僕がそう言うと、ネルは驚いたような顔をして、クスリと笑った。


  「ずいぶんとファンシーですね。武器に意思があるなどと。武器は物ですよ?なつくなつかないなど、ありません」

  「……君の言う通りだったら、どんなにいいことか……」

  「?」


  僕の牢屋についた。僕は不思議そうな顔をしているネルを無視して、自分で中に入る。


  「……これでいいんだろう?」

  「ええ。あなたがおとなしくしてくれているおかげで、私たちは彼女たちに無礼を働かなくてすみます。牢屋でも、余計なことは話していなかったですしね」

  「盗み聞きしていたのか」


  予想どおりとはいえ、そら恐ろしくなる。もし、僕があの子たちに脱出するよう話していたら、一体……


  「実はですね、これまでに何度も、あなたたちのような境遇の旅人たちがいるのですが、私が盗み聞きのことを話したのは、あなたが初です」

  「……大丈夫なの、そんなこと。僕に教えて」


  ネルは、クックと、嫌らしく微笑んだ。


  「ええ。私たちは決めていたのですよ。私たちの要求に応えられる旅人は、丁重に扱うと。大抵の旅人たちは……一度の面会が、最期になりますね」

  「……」


  つまり、僕はこれからも面会を許されるのだろうか。なら、いいんだ。


  「では、今日はゆっくりとお休みください。食事はあとで運ばせます。明日に備えて、ね」

  「……」


  コツ、コツ、コツ……


  ネルが去っていった。

  もう見張りは誰もいない、はずなのに。誰かに見られてるんじゃないか、なにが彼らの逆鱗に触れるか、そんな事ばかりを考えてしまう。ネルは休めと言った。けれど、眠れるわけがなかった。


  一睡もすることなく、僕は翌日を迎えた。

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