第二十一話
青年に連れられて来たのは、木々を切り開いて作られたそこそこ大きさの広場にある集落だった。三角錐型のテントがたくさんあって、それらは広場の中心にある丸太を囲うように点在していた。
「ここがあなたたちの村ですか?」
「はい。ここが我らの村です」
青年はさっきから必要最低限のことしか話してくれない。まあ、通訳が勝手にペラペラしゃべったら意味ないし、気にして無いけどね。
「あ、あの。私たち大丈夫なんでしょうか……」
「どうして?」
今僕らは特に危険にさらされているわけではないのに。
「あ、あの、う、後ろのみなさんが妙に殺気立ってるというか、なんていうか、怖いです……」
ふむ。それは気になるね。
「あの」
「なんですか?」
「なぜ、僕らはここに連れて来られたんですか?」
教えてもらえるとは到底思え無いけど、一応訊いてみる。
「ああ、それはですね。少しだけ手伝ってほしいことがあるんですよ」
「手伝ってほしいこと?なんですか?」
意外と言い渋ることなく話しが聞けるようだ。まあ、少しは親愛の情を示してもらえたかな?
……なんてね。
「簡単なことですよ」
「なんです?ちなみに僕、力仕事は苦手ですよ?」
「大丈夫ですって。特に力もいりませんから」
「何をすればよいのですか?」
「簡単ですよ」
ふと、青年の笑みが深くなった。……あ、もしかして?
「ただ我らのために死んでいただければ、よいのです」
「………っ」
ザクリ。
「旅人さんっ!?」
「大丈夫!?」
痛っ……!
後ろから刺された!?
後ろをふり返る。驚いて僕に駆け寄ろうとしているエレナとレナ以外、誰もいない。誰もいない!?
「来るなッ!」
こうなればもうできるできないの問題じゃない!エレナ達を守らないと!
「で、でも」
「僕なら大丈夫!だから、警戒するんだ!エレナ、君なら見えるはずだっ!」
「だ、大丈夫なわけないじゃない!ち、血が、血がいっぱい出て……!」
ああ、もう!
僕は力を振り絞り、アークソードを通訳の首に突きつける。
「全員動くなッ!」
僕は叫ぶ。僕を刺した連中は僕が叫んだ意味がわからないはずだけど、通訳が危機に貧しているからか、攻撃してこない。
「私を人質にしたところで、変わりませんよ?」
「僕は動くなと言った!口を動かすな!」
「……やれやれです」
通訳は呆れたように肩を落とした。
「あ、あの、大丈」
「君たちも死にたくなかったら動くな!」
僕の怒声に怯えて、エレナがびくりと肩を跳ねさせた。
「なぜ僕らをねらう?」
「……」
「っ。答えられないってことか……」
僕も答えてもらえるとは思っていない。どうするか……。
逃げるにしても視界が悪すぎるし土地勘もない。後ろに刺さったナイフもなんとかしなければならないし、そもそもエレナ達を無事に逃がせれるかどうか……。
グラリ。
視界が揺れる。意識が薄れる。しまった……っ!血を流しすぎた……!
「ほんと、どうしようもないですね。まさかこの状況で私を人質にするなんて。とっとと逃げれば助かったかもしれないのに……」
「くぅ……」
逃がす気もないくせに、よく言う。出会った瞬間から、殺す気だったろうに。……まずいな、このままじゃみんな死ぬ。僕はともかく、エレナとレナは……。
グラリ。
「……っ」
「だんだん刃が下がってきてますよ、大丈夫ですか?」
「……ッ!減らず口を叩くなっ!」
だ、だめだ、意識が……薄れる……!
もしここで僕が死んだら、エレナ達はどうなる!?いまは耐えろ、耐えるんだ!
「む、無理しないでください!」
「あなた、すごい血が……!」
僕を心配してくれるこの声を、僕はなくしたくない。亡くしたくない!
「……なかなか、耐えますね」
「え、れな」
通訳の言葉を無視して、エレナにはなしかける。
「な、なんですか?」
「ぼ、ぼくが、うごかなく、なったら、全速力で、逃げるんだ」
「嫌です!私は、あなたしかいないんです!あなたがいなかったら、私……」
「行かなきゃ、僕が君を殺す」
「……!」
ここに留まったところで死ぬしかない。苦しめられて殺されるかもしれない。そんな不安をこの子に感じさせるくらいなら、僕が楽にしてあげる。
「ど、どうぞ、殺してください。私はここから、離れません!」
「……っ。れ、れな、逃げて」
「逃げれるはずないじゃない」
……っ。
グラリ。グラリ。
「……もった方ですかね。いや、どうしてまだ意識を保っているのかが不思議です。かなりの毒を塗っていたのですが……」
どく、か。どうりで、苦しいはずだ。……っ。僕はもう、死ぬのか。
「……エレナ、レナ」
諦めようか。もう、ダメだ。二人が泣きながら何かを叫んでいるけど、もう僕には聞こえない。もう、視界も真っ暗になってきた。これが、僕の最後か。
だから最後に、一言。
「逢えてよかった」
全身の力が抜けて……。
僕は、僕は。




