表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/48

第十八話

どれくらい経っただろう?

夜空に輝く星々は一層その光を増し、荘厳な風景を形作っている。森の中の動物たちの微かな鳴き声のみが響き渡る、静かな空間。


  「……ふふふ、とても静かだな」


  僕のそばにあるテントからは物音すらしない。二人とも疲れているのか、熟睡しているのだろう。まあ、歩きづめだったからね、仕方ないよね。エレナはともかく、レナは今までずっと馬で移動していたから、なおさらだろう。


  「……」


  シャリ……


  二人が熟睡しているのを確認してから、僕はアークソードのすぐ隣にある銀光、シルバリオンを抜く。

  前の国でレナと争ったときに、彼女が取り落としたのを僕がこっそり持ち出した。そのまま帯刀していたのだけれど……。誰もきづかなかったな。まあ、気付かれても困るんだけど。


  「……」


  シルバリオンは、色狂いジークハルトの剣だ。彼の故郷で唯一彼が気にいったもの、だったはず。あいつは気にいったものを大切にする。それは人だろうと物だろうと関係ない。


  「……どうして」


  疑問なのは、なぜこれが僕の手に……いや、もっと言えばどうしてレナの手に渡ったか、だ。渡してもらった?まさか。あいつはこれをそうとう大切にしていた。そもそも剣士がそう簡単に自分の愛剣を手放すものか。

  ……僕はできることなら今すぐにでも腰の剣を手放したいけど、無理なものは無理。諦めるしかない。

  

  「他に考えられるのは……」


  レナがこれをあいつから奪った、ということ。でも……


  そんなこと、ありえるのか?

  あいつは伊達や酔狂でこれを帯びているわけではない。あいつは鬼のように強い。少なくとも僕よりは。もしレナがあいつからこれを奪ったというのなら、僕よりも、あいつよりもはるかに強いということになる。


  「……まさか」


  そこまで考えて、ありえない、と首を振った。けど、それならレナはどうやって……


  「……いったい、いつ交代なの?」

  「起きたの?」

  「ええ。どうしても眠りが浅くって」

  「まあ、最初はそんなものだよ」

  「エレナがそうだったから?」

  「……まあね」


  レナが、テントから這い出て僕のとなりに座った。僕はとっさにシルバリオンを隠そうとして……別に隠す必要はないな、と諦めた。


  「ねえ、あなたはどうしてエレナを連れているの?」

  「寝る前に話したよ?」

  「ううん、あの話はどうしてエレナを助けたか、っていう話よ。どうしてここまで連れてきたの?」

  「なにが訊きたいの?はっきりしてよ」


  回りくどいのは苦手だしキライだ。


  「どうして、助けたあとずっと連れてるの、ってことを訊きたいの。もっと言えば……あの子のこと、好きなの?」

  

  好きか嫌いかできかれたら間違いなく好きだといえるけど……レナが聞きたいのはそういう答えじゃないんだろうね。


  「別に。エレナが勝手についてきているだけ、とは言わないけど、僕は彼女に恋愛感情を抱いてないよ」

   「……じゃ、じゃあなんで」

  「それはね」


  僕があの子を連れまわす理由。それは簡単。単純。


  「僕は旅の仲間が欲しかった。ただそれだけだよ」

  「……そう、なの」


  ほっとしたような、少し残念そうな微妙な表情で、レナは言った。


  「ところで、レナ」

  「なに?」

  「つかぬことを訊くけど……これ、どうやって?」


  チャリ、と僕はシルバリオンをレナに見せる。するとレナは急に焦ったような顔になって、弁明するように言った。


  「あ、あのあの!そ、それは、その、ジークさんが油断してるスキに、その……」

  「何したの?奪った?」

  「……スったの」



  あ、掠め取ったんだ。


  「そんなことだきるんだ」

  「そ、その、あの時は、仕方なく……」

  「エレナを殺そうと仕方なく?」

  「うう……いじめないでよ……」

  「無理。僕の趣味だもん」


    人をからかうのって楽しいよね?……やりすぎはよくないけど、少しくらいなら、ねえ?


  「な、なんて悪趣味な……」

  「あはは、そうだね」


  自分でも最低だと思うもん。でも、楽しいものは楽しい。


  「まあとにかく、今度あいつに会ったらこれ返さなきゃね」

  「え、ねこばばしちゃわないの?」

  「まあ、ね。こいつが嫉妬しちゃうから」


  そう言って僕は腰のアークソードを指差した。


  「へえ~。恋人は腰の剣、ってやつ?」

  「恋人?まさか」

  「え、じゃあなに?」

  「さあ?これは僕もよくわからなくて」


  こいつは気難しいから、よくわからないんだよ。


  「私はあなたが一番よくわかりらない……」

  「そう?君もたいがいよくわからないけど」


  すごいね、互いが互いをよくわからないと思ってるなんて。


  「同じこと考えてるって、僕たち意外と相性いいのかも?」

  「全然かみ合ってないのに相性も何もありませんよ……」


  ふふふ、レナと話してると楽しいな。


  「で、どうするの?」

  「え、なにが?」

  「君がこれ盗んだのはあいつも気付いてるだろうから……きっと取り返しにくるよ。その時どうするのかって訊いてるの」


  あいつ、執念深いから絶対追ってくるだろうね。


  「か、かえすわよ」

  「返した時、君の胴体が二つになっていないことを祈るよ」

  「……え」


  呆然と、レナは呟いた。あれ、言ってなかったかな?


  「知らなかったの?あいつ、執念深いんだよ?」

  「それは知ってるわ。私が聞きたいのは、胴体がどうたら、ってところ」

  「そうそう、あいつ怒ったら手がつけられなくなるんだよ。滅多に怒らないけど、怒ったら……」


  と、僕はそこでレナを見て、ふい、と目を背けた。


  「そんな、手遅れの病人を見たような反応しないで!不安になるじゃない!」

  「あはは、ごめんごめん。大丈夫だよ。あいつが女の子相手に怒るところなんて見たことないから」

  「……あなたには、って、なんでもないわ」

  「そう?」


  何を言おうとしたのだろうか。どうしてあいつが僕には怒らないか、とかだろうか?そんなこと訊いたら……僕は怒るけどね。


  「なんだか、すごく命拾いした気がするわ」

  「そうなんだ。……そろそろ、夜も遅いし、寝たら?」


  楽しかったけど、あんまり続けてレナの負担になっても嫌だ。明日は人知未踏の地なんだ、備えて損はないだろう。


  「……ええ、わかったわ。それで、一つ質問なんだけど」

  「なに?」


  なんだろうな、ってなにげなく僕は返事した。


  「私のこと、好き?」

  「………」


  早く寝かしつけようか。いざとなったら力ずくで。そう微かに思う僕だった。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ