第十六話
「るんたった~、るんたった~♪」
「ご機嫌だね、エレナ?」
僕は旅人。
何か目的があってこうして荒野を彷徨い、国から国へと渡っているような気がするし、なんの目的もなく気の向くままに移動を楽しんでいるような気もする。
「にゃふ~♪ええご機嫌ですよ、最高の気分ですよ!食べ物があるって幸せですね!」
「……まあね」
重そうな荷物を背負いながら楽しそうに歩くのは、茶色の髪、茶色の瞳のかわいらしい女の子、エレナ。この子はミケーア商会に売られ、あわや奴隷になる、というところを僕が助けたけど、いくあてがないとかで僕にそのままついてきた。仕方なくついてきているだけなので、旅人ではない……と、思う。
「……元気ね、ほんと、感心するわ」
エレナや僕ほどではないにせよ、荷物を背負いながら不機嫌に歩いているのは、黒い長髪に黒い瞳の美しい女性、レレナだ。僕はレナ、って呼ばされてる。
死にかけていた僕らを助けたくれた優しい女性……だと思っていたのだけど、どういうわけか僕たちについてきたいと理由だけで馬も荷馬車も全部売っぱらってきた行動力もある女性だ。それと妙にエレナに冷たい。
「エレナは力持ちだからね。助かるよ」
「はい~。これくらい、食べ物がないことと比べたらなんでもありません!」
「たくましいね」
「違います、あなたの役に立てるのがうれしいんです!」
「またまた、面白い冗談を」
「冗談じゃ、ありません!」
「はいはい」
まったく、エレナの冗談は面白いね?
「むう~!あなたたちいっつもこんな会話してたの!?ま、まるで恋人……っ」
「恋人?なにいってるんだい、僕らは仲間じゃないか」
「あなた絶対わかっていってるよね!?」
なんのことかな?よくわからないよ。
「あれ?」
エレナが歩いている方向に目を凝らすと、珍しいものがあった。
「な、なんですかあれ!?」
「あれは……」
エレナが指差したのは、荒野の向こう。けれど、指さされた場所に砂色の荒野はなく、あるのは緑色の大地。
「あれは、森かな?」
「へえ~!森ってあんなに広いんだ!」
レナも森は見たことがないらしく、物珍しそうにはるか先にある緑色を見つめていた。
「すごいですね!あんなに緑なのがいっぱい……。なんか遺跡時代みたいですね!」
「そうだね、エレナ」
遺跡時代とは、世界中に散らばる遺跡が現役だったころの時代をいう。推測では一万年前とも、十万年前とも言われている。唯一たしかなのは科学が発達し、魔法と共存していた、ということぐらい。今では科学も魔法もほとんど見かけないけど、昔はそうじゃなかったらしい。
「それにしても大きいわね……。もしかしてあれって遺跡だったりする?」
「さあ?可能性は十分だけど……確かとは言えないなぁ」
僕は考古学者じゃないから。
「あ、あの。森に入るんですよね?」
「入らないのにどうして近づくのさ。入るに決まってるじゃないか」
というか、そもそも、森には『入る』って表現であってるのか?ううん、よくわからないなぁ。
「森ってどんなところなのかしら?興味あるわ。あなたはどう?」
「ありますあります!」
「あなたには聞いてないわ」
ということは僕か。
「まあ、僕は興味と好奇心が原動力の旅人だからね、興味がないわけじゃない」
「……手放しで楽しみだ、とは言わないの?」
「言えないよ。僕一人だっだらそうだけど、君たちがいるから、気を抜けない」
僕がそういうと、二人はそろって黙った。
「ごめんなさいです……」
「ごめんなさい……」
そして、二人そろって謝られた。
「謝らないで。僕は君たちを好きで連れてるんだから、足引っ張ってるなんて思わないでよ」
僕が言うと、レナは急に明るくなった。
「そうなの?私のことが好きだから連れてきてくれたの!?」
「人の話聞いてましたか!?誰もあなたのことを好きだなんて言ってません!好きだと言ったのは私のことです!」
「そんなわけないでしょこの猫!」
「ヤンデレは黙っていてくれますか!?」
「なんですって!?」
「そつちこそヤル気ですか!?」
バチバチっと睨み合った二人。今にもつかみ合いのケンカでもしそうな雰囲気だ。そろそろ止めるか。
「二人とも、僕はそういう意味で好きだと言ったわけじゃないからね?」
「「……そんなっ!」」
二人とも仲良くハモって叫ぶ。
……うわ、二人とも可愛いな。
今思った。
実は僕、幸せ者?
だって片や茶髪の可愛らしい女の子。方や黒髪の美人の女性。
両手に、花?
……いや、まさかね?
「さ、そろそろ行こうか二人とも。今日は森の手前で野宿しよう。きっといい景色だと思うよ?」
「はい!」
「うん!」
僕らは森に向かって歩を進めた。……まあ、その。
本音を言うと、メチャクチャ楽しみだ。




