第十四話
僕は今、修羅場の中心にいるんじゃなかろうか。そんな錯覚が芽生えた。
「ねえ、もし、もしだよ?もし僕が君とは旅したくないって言ったらどうする?」
「あなたを殺して私も死にます!」
そんな満面の笑みで言われても。
「やっぱりあなたヤンデレだったんですね〜」
ニマニマとからかうように笑いながら、エレナは言った。ヤン……デレ?なにそれ。
「なによ猫かぶり」
「猫なんてかぶってません!媚びてるんです!」
「そういうのを猫かぶりっていうのよ!」
僕としてはその、ヤンなんとかのレナより、媚びてても害のないエレナのほうが好感持てるんだけどな……、てか媚びてたのか。知らなかった。
「わざとじゃありません!」
「わざとじゃなきゃいいってものじゃないわ!」
「いい悪いじゃなくて!自分じゃやめられないって言ってるんです!」
「じゃあ止めてあげるわ、ついでにそのちびっこい体も一緒に、止めてあげる!永遠に!」
そうレナは叫ぶと、エレナに飛びかかって、って。
「なに当たり前みたいに喧嘩してるんだ」
「ぐうっ」
僕は首根っこをつかんでレナを止めた。女の子にする仕打ちじゃないけど、まあこの場合は仕方ないよね。
「な、なにするのよ!」
「それはこっちのセリフ。なんで君は武器もないのにエレナに突っ込んでいくの?そもそもなんで殺そうとするの?」
「うわぁ……。あなた今までの会話全部聞いててその反応って……」
なんだかエレナは僕を信じられないものを見ているような目で見てるし。どうして?
「レナさん」
「……なによ!」
「一旦休戦しませんか?」
「はあっ!?」
レナは惚けたように声を上げた。
「なんであたしとあんたが休戦しなきゃいけないのよ!」
「まあまあ。まずはこの人の超鈍感をなんとかするのが先だと思いませんか?」
「……」
僕が鈍感?まさか。僕は今でも周囲十メートルの人の気配がわかるんだ、人より敏感だと思ってるんだけど。もしかしてまだまだ足りないのかな?
「ほら、今でもきっと全然見当違いのこと考えてますよ。多分感覚鋭いから鈍くないとか思ってるんじゃないですか?」
すごい、ぴったり当たった。この子は透視能力でもあるのだろうか?
「た、たしかにそうね……。で、でも、それと休戦とどう関係が?」
「んっふっふっふっ……」
エレナはやはりニマニマと笑いながら、首をつかまれて動けなくなっているレナに近付き、耳打ちした。
「いいですか、この人を………して………すれば、……となって、私たちの……になって、あなたと私で交代交代で……して、しましょう」
重要な単語だけが聞き取れない。聞取らないと僕の身が危ないとわかっているのに、聞こえない。
「それ、いいですね。あなたただの猫かぶりじゃありませんね……。でも、……を……した方がはるかに楽だし、長く愉しめませんか?」
「あ、それいいですね。……いえ、まってください、それなら少し効率が悪いです。……を……して、それから……………………すれば、確実です」
「あなた天才かも。わかったわ、一時休戦、共同戦線ね」
「はいです!」
………僕、一体どうなるんだろう?殺されは、しないだろうけど……ねぇ?
「もういいかな?」
「はいです!」
「はい」
僕はレナの首から手を離した。と、と、っとフラフラしながらエレナのそばに行くと、二人は仲良さそうに手を繋いだ。さっきまでいがみあってた二人が急に仲良くしたらかえって気味が悪い。
「あ、あのさ、エレナ?」
「あの、もしよかったらでいいですけど、レナさん連れていきません?」
「いいの?この人ミケーア商会の人だし、それに君、もしかしたら殺されるかも……」
僕はそう言って警告するんだけど。
「大丈夫です!私もうミケーア商会抜けましたから!」
「大丈夫です!私気合でなんとかしますから!」
なんてことを言われた。レナはともかくエレナは不安すぎる。気合ってなんだ、気合って。
「あー……」
どうしよう。正直レナは前科、っていうか襲い掛かってきたからね。いろいろと不安だ……けど。
まあ、今のレナはさっきみたいな狂気っていうか、暗い感じがないから安心だけど……またさっきみたいにならないとも限らないし、どうしよう?
「も、もしレナさんを連れていくのがダメっていうなら、私たちあなたを巻き込んで心中します!無理心中しちゃいますから!」
……やれやれ。どうしてこうもすぐに自分の命を盾にとるのかな?もし僕が君たちのことを疎んでたらどうするつもりなんだろうね?……まあ、そんなこと全然ないけど。
……まあ、無理心中はせれたくないからなぁ。




