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第十二話

  タッタッタッと、僕らは人混みをかき分けて走る。

  ガチャガチャガチャと激しく音を立てながら、騎士達は僕たちを追いかける。

  道行く人々は僕たちのことを何事かと驚いたような目を向けるが、追われているとわかっていてもなにもしてこない。おそらく面倒ごとを避けている……のかな?


  「まて~!貴様ら!いい加減諦めろ!」

  「あんなこと言ってますけどどうします!?」

  「待てと言われて待つヤツは居ないって言っといて!」

  

  何を呑気なやりとりしてるんだ僕たちは!


 そんなことを言ってるうちにどんどん騎士達は僕たちに追いついてきた。僕はともかく、エレナはとても足が速かったはずなのに、どうしてさっきからペースが落ちているのだろう?


  「あ、あの、 私、その、もう走れないかも、しれま、せん……」

  「どうして?君かなり体力あるよね?」


  エレナの国はどういうわけかデフォルトで超人的な体力を持っているらしい。この子もその例に漏れず足が速く、持久力がある。はずなのだが。


  「そ、その、こんな荷物持って走ったことなんてありませんから、その、しんどい、です……」


  まあ無理もないかな?慣れない事をすると体がすごく疲れるからね。仕方ないよ。


  「じゃ、今回もずっと前と同じように強行突破しようか」

  「は、はいです」


  いつもならツッコミがきそうなものだけど、今はその気力さえもないみたいだ。

  門まで体力もつだろうか。


  多分この調子だともたないとは思うけど、もたなきゃ死ぬんだ、まさしく死ぬ気で走ってもらわないと。


  エレナもそれはわかっているんだろうけど、彼女はだんだんと目に見えて速度が落ちてきた。


  よほど荷物が重かったのだろう。やはり無理してたのか。……まずいなぁ~。


 エレナがいる手前追ってくる連中を虐殺するわけにもいかないからね。さてどうしたものか。今回ばかりはさすがにエレナの目がどうこう言ってられない気もするけど……。


  「あ、あの!」

  「ん?」

  「そ、その、そこ、隠れられるんじゃ、ないで、しょうか?」


  エレナは途切れ途切れになりながらも少し先にある古ぼけた家屋を指差した。


  まあ、あそこなら隠れられるだろうね。もうほとんど人もいなくなってきたし。


  「そうかも。でも撒かなきゃ意味ないよ?ここからあそこまで全力ダッシュできる?」

  「したら、助かる、んですよね?」

  「多分ね」


  僕は短く言った。


  「じゃ、じゃあ、え、エレナ、本気で走ります!」


  びゅん!


  ……その擬音は、人が走って起きる音じゃないよね?なんでそんなに速く走れるの?さっきまであんなに辛そうだったのに、よく走れるね?


  っと、感心してる場合じゃなかった、僕もそろそろ本気出さないと。エレナが頑張ってるのに僕のせいで捕まったら、申し訳がたたないよ。


  僕もラストスパートをかけて、廃屋の中へと駆け込んだ。


  「おい!あいつらどこいった!?……くそっ!なんて素早いやつらだ……」


  そんな怨嗟の声を後ろに聞くと、よかった、と僕は胸を撫で下ろしたのだった。







  廃屋の中はまさしく寂れた木造家屋という感じで、エレナがどさりと腰を下ろすと大量のホコリが舞った。


  「けほっけほっ……。こ、ここホコリっぽいですね…」

  「そうだね。ちなみにこういうところはところどころにカビが生えてるものだけど、エレナの座ってる場所は大丈夫なのかな?」


  僕がそういうとエレナはビックリして立ち上がり、お尻をはたいた。


  「え、え~!あ、あなたそういうことは早くいってくださいよ!思いっきり座っちゃったじゃないですか!」

  

  まあもちろんのことエレナのところにはカビなんて生えてないけどね。もし生えてるならエレナが座る前に注意してるよ。ようするにいつものようにからかいたかっただけなんだよ。


  「大丈夫だよ。どこも汚れてないよ」

  「ほ、ほんとですか?」


  エレナは疑いの目を僕に向ける。……すっかり信用なくしちゃったな。なんとかして信用取り戻……いや、無理だね。


  「それにしても、ここどうして捨てられてるんだろうね?」

  「知りませんよ~」

  「だろうね。まあいいけど」


  僕らはまだ玄関にしか入っていないけど、ここはかなり狭い。多分十畳ないんじゃないだろうか?きっとここは買い手、もしくは借り手がつかなかったから打ち捨てられたのだろう。ここはたしかに生活するには狭い。けれど……


  「隠れるのには十分だね、エレナ?」

  「はいです……」


  なんというか、エレナは辛そうだった。疲れている体に鞭打ったから限界がきたのだろう。この子はしばらく走るどころかまともに動くことすらできないだろう。いくら常人離れしていると言っても女の子なんだ、これ以上の無理はさせられないし、させるつもりもない。


  「疲れた?」


  僕は荷物を下ろしてくたりと横になって休んでるエレナに話しかける。


  「……はいです……」


  虫の息、とはこのことだろうか。息も絶え絶え、疲労困憊を地で体現したような状態のエレナに、早く国をでようと急かすのは無茶というものだろう。


  「僕もだよ。今日は出発を諦めて、明日出よう」

  「……すみません……」


  か細く、エレナは言う。


  「どうして君が謝るの?」

  「私のせいで、国を出れなくなって……」

  「君のせいじゃないさ。僕だって今日は疲れたからね、休みたかったんだよ」

  「……」


  どうもエレナは僕を信じてくれないようだ。嘘をつきすぎたかな?


  「……わかり、ました……」


  信じるしかないと思ったのか、それとも僕が疲れたとか彼女にとってももうどうでもいいことなのか、そう言うとエレナはそれきり黙った。おそらく、眠ったのだろう。今日はいろいろあったからね。


  僕も休みたい。


  狭い玄関で身を寄せ合うようにして僕は横になった。

  エレナのかわいらしい寝顔が目に入る。


  可愛いな。この安心しきったような顔を、僕はなくしたくない。……からかう相手がいなくなってもつまらないし。


 そんな本人が聞いたら憤死しそうなことを考えながら、僕は眠りについた。    

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