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第十一話

  はあ、なんとかなればいいけど、なんともならないよなぁ。


  僕らは今人混みに紛れているから発見されずにすんでいるけど、国の外に出ようとするとどうしても見つかってしまうだろう。別に見つかったところで最終的に暴力に訴えればなんとかなるだろうけど……間違いなく血みどろになる。そんな事態になるのはできるだけ避けたい。


 「……ねえ、エレナ?」

  「なんですか?」


  無邪気な瞳。なんか僕が追っ手をまけるものだと信じて疑っていないような、そんな目だった。

 無性に、からかってみたくなった。

  僕は最低なのかもしれない。こんないたいけな女の子をからかって楽しみたい、と思うなんて。 


  ……止める気?かわいそうかもしれないけどさらさらないよ。


  「諦めようか」

  「どうしてですか?」

  「いや、うん、多分無理」

  「じゃあ、私はどうなるんですか?」

  「大丈夫だと思うよ?隠れて生きるなら」


  僕がそう言うと、エレナはふう、と息を短く吐いた。


  「そうですか……。ちなみに、どのくらいの間ですか?」

  「一生」

  「一生ですかっ⁉」

  「……冗談だよ。少し無理矢理な方法だけど、外にでることはできるよ」

  「そんな時点から冗談なんですか⁉」


  まあね。狼狽えるエレナの顔が見たかったんだけど、あんまり冗談が過ぎると泣かせてしまうからね。涙が見たいわけじゃないんだよ。


  「まあね。でも、かなり危険かも。……まともに死ねるといいね?」

  「私に何させる気ですか⁉」

  「これも冗談。危険だけど、死にはしないよ。……多分」

  「最後の付け足しが余計です……」

  「そうかな?……まあ、いいか。さて、外にでた時に空腹で死にかけないよう食料を買い込もうか。干し肉とかあればいいけどね」

  「……食料とかそれ以前に、そもそも私たち、無事に出れるんでしょうか……?」

  「不安かい?」

  「当たり前です!」


  う〜ん、ちょっと怖がらせすぎちゃったかな?……まあ、実際僕も不安だけど、エレナがいるからね。頑張らなきゃ。


  「大丈夫だよ、エレナ。僕は逃げることにかけては天才なんだよ?」

  

  ミケーア商会からとか、あの色狂いからとか、他にもいろいろ。なぜか僕は逃げる経験が多いから、自然に逃げるのが得意になっていたんだ。


  「もっと別なことに自信持って欲しいです……」

  「あっはははは!そのおかげで君は今五体満足でいられるんだよ?それを考えてごらんよ、このスキルだってバカにできないよね?」


  全くもってエレナの言う通りなんだけどね?一応否定しておこうかな。


  「そう、ですよね。……じゃ、じゃあ食べ物探しましょう!いろいろ買い込んで、次の旅に備えましょう!」

  「くすっ……そうだね」


  よかった。エレナに笑顔が戻った。宿から逃げた時以降、この子かなり落ち込んでたからね。落ち込ませた原因のいくつかは僕だけど、僕が原因じゃないのもあったし、まあ結果オーライってやつかな?


  「さて、と。いいかい、エレナ。保存が効くのを多めに買って、それ以外は少なめに。そうじゃないと腐っちゃうからね。わかった?」

  「はいです、いきましょうか!」


  るんるんと擬音が出そうなぐらい軽やかに人混みをかき分けるエレナに、もう絶望の色はなかった。……うん、よかったよかった。





  

  「ねえエレナ?」

  「な~んで~すか~?」

  

  音符がつきそうなぐらい笑顔で朗らかにエレナは返事してきた。ただしずいぶんと苦しそうな声だけど。

  食料の買い込みが終わって、あとは日用品を買うだけだから、今ミケーア商会の連中が追いかけてきてもなにも問題はない。だから僕はある程度は安心している。


  エレナはどうやら食料のある旅ができるのが楽しみでしかたないらしい。……全く、このことに関しては僕の責任だからね。申し訳ないと思うよ。ただ、ねえ……。


  「重くない?」


  彼女は背中に大きなリュックを担ぎながら歩いている。なんていうかその、重そうだ。一応僕はエレナが担いでる倍の荷物持ってるけどさ。

  無理矢理持ってもらってる、ってわけじゃないんだけど……やっぱり女の子にこんな荷物は持たせたくないなぁ。


  「ぜ~んぜん大丈夫です!重いですけど、この重さが明日の命だと思うと軽いもんです!これで空腹で幻覚見たりとかしなくてすみますね!」

  「……いろいろとごめん」


  なんでエレナはそんな重い言葉をさらりと……。全部僕のせいか。

 

  「気にしないでください!あなただって私より重い荷物持ってるじゃないですか!」


  まあ、そりゃそうだけどさ。これは僕のプライドみたいなものだからね。それに、これぐらい重いとも感じないし。


  「さて、日用品……服とか見て行こうか」

  「そんなにお金使って大丈夫なんですか?私服とか気にしないタイプですし、今は早く逃げる方が先決なんじゃ……?」

  「まあ、そうだね。でも、僕もそろそろ新しい服とか欲しいし。お金のことなら大丈夫。……くす、人って命が危ないとわかれば品物くらい簡単に渡すから楽だよ」

  「なにするつもりですか⁉」

  「冗談冗談」

  「ほ、ほんとに冗談なんです……よね?」


  ほんとだって。この国では僕が持ってた金貨がかなり価値があったみたいで、あまりお金には困らずに済んでいる。

  

  「ほんとに冗談だよ。こんな話をしてないで、早く日用品を……おや?」


  エレナと一緒にそこらの雑貨屋に行こうかな、と思っていたところ、目の前に鎧を着込んだ騎士達が何十人も人ごみかきわけせわしなく動いていた。


  ……まあ、例によって例のごとく『あの2人組はどこだ!』とか言いながらガチャガチャ音を鳴らして誰かを捜してるみたいだね?


  しかも、騎士達の武装は槍とか銃とかメチャクチャ重装備。まともにやりあったら、いや不意打ちしても勝てるかどうか。


  ……。


  「逃げるよエレナ」

  「は、はいです……」


  さっきからエレナが静かだと思ったら、恐怖で固まってた見たい。うーん、可愛いんだけど可哀想だなぁ。


  「あ!貴様らは!」


  ばれた!


  「急ぐよ!」

  「はいです!」


  また僕らはミケーアの連中から追われることになった。






 逃げ切れるかなぁ……?   

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