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第一話

 僕は旅人。

  

  何か目的があってこうして荒野を彷徨い、国から国へと渡っているような気がするし、なんの目的もなく気の向くままに移動を楽しんでいるような気もする。


もし目的があったとしても、忘れてしまうような目的なんて、きっとたいしたことないんだろうけどね。


  せいぜい親に世界を見てこいと言われたんだろう。もう顔も思い出せないけど。


  「お腹空いたなぁ……」

  

  お腹を押さえて呟く。一人旅は空腹が際立って仕方がないなぁ。やっぱり他の旅人さん達と同じように旅の道連れぐらいいたほうがいいのかな……?


  そんな夢想はさておいて、とにかくお腹が空いた。たしか最後に食べ物を口に入れたのは五日前……だったかな?


  「お腹が空くのは当たり前だよ……」

 

  周りに食べ物がないのもだけど、気付くまで忘れてる僕も僕だよ。


  ……どうしようか?こういう時は動物とかが通りかかってくれればいいんだけど……。


  「おい、さっさと来い!」


  その時、都合良く動物の声が聞こえた。野太い、吐き気がするような下卑た声だ。


  「……ぃや!貴方達、やめて下さい!」

  

  その動物はどうやら集団で、女の子を襲っているようだった。


  ……どうしようか?


  あの動物は食料もってるかな?

  ま、いざとなったらあいつら食料にすればいいし……って、なんてこと考えてるんだ、僕は。


  「……あ、あのっ!」


  ……あ、僕に気付いた。


  「そ、そこの人!お、お願いします、助けて下さい!な、何でもしますから!」


  女の子がそう軽々しく何でもするなんて言っちゃダメだよ?なんたって男は狼なんだからね。


もちろん僕だってその狼のうちの一人だし、今一瞬えっちぃ想像をするような俗物だよ?   


 「いいよ」


  まあ、なんでもなんてして欲しくはないけど……助けるとしようかな。ここで見捨てたら寝覚めが悪いし。


  ……それに。今僕はお腹が空いているんだ。少しばかり、イライラする。


  「……君たちさあ、やめてあげなよ」


  「あ?なんだよお嬢ちゃん、混ぜて欲しいのか?ならちょっとだけまってな、こいつを黙らせてから……」


  ……今、こいつは誰に向かってお嬢ちゃん、なんて言ったんだろうね?


  「……やめてあげたら?かわいそうだよ」

  「あんたも仲間入りするんだぞ?げひゃははははは」


  ……………………


  「君たちに、男色の毛があるなんて思わなかったよ」

  「はあ?なに言ってんだ、んなわきゃね~だろ!」


  君たちにとっては、まだそっちのほうが良かったのかもね?


「……そう」


  僕は腰に携えた巨大剣アークソードを構えた。


  ……久々の戦闘だな。やりすぎないよう気をつけよう。













  …………やりすぎた。僕は全身を血に染め上げ、女の子を襲っていた動物はバラバラになってそこらに散らばり、その中身を荒野にぶちまけていた。


  やっぱりと言うか、かけらも手加減出来なかった。いつものことだとは言え、血に濡れるのは気分が悪い。


  「大丈夫?」


  僕は肉塊のそばでカタカタと震えている女の子に手を差し伸べた。


  「ひ……っ」


  僕の手を見るなり、この子は大きく目を見開いて後ずさる。


  まあ、予想はしてたけど……結構ショックだなぁ……


  ま、これ以上長居しても怯えさせるだけだし、行こうか。


  「あ……」


  呆然とした声が後ろから聞こえたけど聞こえないふりをしてあげる。


  「ま、待って!……くだ、さい」

  「……なに?」


  へぇ……まさか声をかけられるとは思わなかった。勇気あるね。


  「あ、あの、お、お名前、教えていただけますか?」

  「知ってどうするの?呪いでもかけるの?」


  冷たく言う。あんまり恩を感じられてもあれだしね、ここで別れたほうが僕とこの子のためだ。


  「違います!私名前で呪えるほど呪術に長けてません!」


  意外と冷静だね?こんな目に何度か遭ったことあるのかな?


  「……ふぅん。じゃあなんで?」

 「そ、その、助けてもらったし、恩人の名前ぐらい……」


  恩人、ね。


  「君さ、忘れてない?」

  「な、なにをですか?」


  うん、綺麗さっぱり忘れてるみたい。でも、今はそっちのほうが都合がいい。


  「君、助けてくれたら何でもする……んだよね?」

 「あ……」


  クスクス、これで手のひら返して別れようとするね。あ、じゃあさよなら~みたいな感じで。


  「……な、何をすれば、いいんですか……?」


  あれ?ちょっとだけ予想と違うなぁ……


  「……えっちぃ事でもいいんだよね?」

  

  なんだか変態になった気分だなぁ。この子からしたら僕は間違いなく変態のエロエロ下半身野郎なんだろうね~。


  ……むしょうに悲しくなった。


  「………そ、その、贅沢を言わせていただくなら、その、痛くしないでください……ね?」


  ……な~んでこうも直ぐに覚悟決めちゃうかな?そんなに襲われたいの?襲っちゃうよ?


  「よ、よろしくお願いします……」


  なんで肩に手をかけられてもそんな事言うのかな?もう覚悟完全に決まっちゃった?


  「……冗談だよ」

  「……え?」


  肩にかけた手を離して、ひらひらと手を振っておちゃらけてみる。


  「ほ、ほんとに、私になにもしないんですか⁉」

  「何にもしないよ。ちょっとからかっただけさ」 


  僕がそう言うと、女の子はホッとしたように胸をなでおろした。


  なんの関係もない話しだけど、僕にはロリコンの気はないし、それに類する女の子をどうこうしたいとも思わない。


 なんの関係もない話しだけどね。


  ……なんの関係もないよ?別にこの子の事を言っているわけじゃないよ?


  「……なんだかすっごく失礼な事を言われた気がしました」

  「気のせい気のせい」


  鋭い。


  「……でも、ホントのホントに、私はなにもされないんですか?」

 「何かして欲しいの?」


  凄い勢いで首を振ったところをみると、さっきは無理してたんだな。……かわいそうな事をしたなあ。


  「僕は恩にかこつけて嫌がる女の子を無理矢理するのは嫌いなんだ。安心していいよ」

  「……ありがとう、ございます」


  ん?反応がちょっと悪いな。何か言いたい事でもあるのかな?


  「ねぇ、何か言いたいことある?」


  女の子はそう言うと何かを決意するように僕を見つめ、何かを言おうとして、口を閉ざし、また口を開いて、また閉ざす。何かをためらっているようだった。


  「……あ、あの」

  「なに?」


  さよなら、かな?

  ありがとう、さよなら、かな?


 どちらにせよ、ここでお別れなのには変わりがない。


  「わ、私、何でもするっていいました」

  「言ったね」

  「だから、私、待ちます」

  「……は?」


  なにを?誰を?


  「私、決めました。私は今日から貴方の言うことなんでも聞きます。何度でもどんなことでも聞きます」

  「どうして君はそんなに自分を追い込んで「だから!」


  僕の言葉を、女の子はさえぎって、叫ぶように言った。


  「……だから、私をそばに置いてください。私はお金なんて持ってません。あげられるのは身体ぐらいです。あげられるもの全部あげますから、どうか、どうか……見捨てないでください」

  「……」


  うっかり、なんて言葉で済まされるのだろうか。

  すっかり、僕は忘れていた。

  ここは荒野で、危険に満ち溢れてて、女の子なんか一日あれば髄まで啜られるような場所だということを。


  この子は何らかの原因……恐らくはここに散らばっている元人間達に追いかけられて、この荒野に放り出されたのだろう。


  ここから元の国に帰るまでの道、もし僕が居なければ誰がこの子を守るのか。


  ……僕は、バカだ。


  「何でもします、何でもしますから、どうか……」


  女の子にここまで言わせて、僕は一体何をやってるんだ。


  「顔をあげて?そんな風に売り出してくれなくても、僕はちゃんと元の国に帰してあげるから」

  「……え」


  惚けたような顔を女の子はした。よっぽど予想外だったんだろうな。


  「じゃ、さっそく行こうか。道案内宜しくね」

 「え、あ、……はい」


  恐る恐る、女の子は立ち上がり僕の前を歩きはじめる。


  「……あ、そうだ」

  「な、なんですか?なんでも言ってくださいね」


  怯えながらも、女の子はそう言った。

 

  「君の名前は?」


  そんな彼女に、僕は訊いた。

  

  その質問に女の子はまた惚けたような顔をして、安心したのかほころんだ表情で、言った。


「エレナです。私はエレナ・ツォルドルフと言います」


  「……そう。よろしくね、エレナ」

  「はいです!」


  僕の前を、エレナが歩く。僕は周りを気にしながら、エレナの国に向かう。


 ……こうして。















  僕とエレナの旅が始まった。

 

  この子を故郷に帰すまでだけど、十分楽しめそうだ。



 

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