99話 【※注意。若干性的表現(下ネタ)有】 後ろめたい
今話にはやや性的な表現(下ネタ)が含まれます。
そういったものが苦手、嫌いと思う方はこの話を避けて読んで頂ければと思います。
避けたとしても話の流れは理解できるよう努めて続きを執筆致します。
「と、いうことがありまして」
「更生施設からの脱獄ですか……。分かりました。すぐに医療班とそのスキルに対処できるような探索者を派遣させます。念のためマスコミにも情報は流してダンジョン街の人々には万が一の場合に備えてもらいましょう。それで宮下さんたちはどこに? もしかして先にダンジョンに向かわれた? ……いやぁ流石高ランクの探索者ですね。ダンジョン街の人たちに少しでも安心してもらえるように動くなんて」
「いや、その、2人は錦さんの補助で残ってもらうことに……」
「それはそれで立派です! スキルで作られたダミーは動きを止めはするものの決して消えない、つまりは動き出すタイミングが分からないうちはずっと気が抜けないわけで……。いやぁ、あんな風に見えて宮下さんって仕事人というか正義感が強いというか、見直しちゃうかもです」
「あ、はは」
更生施設を後にすると俺たちは急いで探索者協会の窓口に移動。
京極さんに問題の報告を行った。
結果ランク10である宮下さんや苺の行動に感動を覚えた様子の京極さんだが、俺の頭の中には宮下さんの『頼む! 置いてかないでくれ!』という嘆きの声が繰り返されていた。
実は俺たちが意気揚々と更生施設を後にしようとしたとき、応援が来るまでの錦さんに代わるダミー用の戦闘係として宮下さんたちが錦さんに引き留められたのだ。
それは錦さんが2人よりも俺たちの方が脱獄犯たちを捕縛するのに優れた戦力だと判断したから、というだけではなく気配を消せるモンスターとの契約をしているという点がダミーとの戦闘において有効に働くと思ったかららしい。
必死に抵抗、反論をする宮下さんは俺のイメージするランク10の探索者とはかけ離れていて……ちょっと引いてしまったほどだ。
保有スキルは強力だし、冷静にしてれば雰囲気のあるかっこいい人なんだけどな。いやぁ、乾いた笑いが隠せないな。
「とにかく早急にこの事件に当たりたいと思います。あ、それで当初の目的は果たせましたか?」
「あ、それは問題なく。はい」
「? なんか歯切れ悪いですね」
「そんなことないですよ。俺はいつもこんな感じです。そ、それじゃあ俺たちはダンジョンに向かいますので」
「気を付けてくださいね。他の探索者にもこの事を報告して、当然助っ人も派遣しますから」
「はい、お願いします」
俺の様子を訝しむ京極さんだったが、適当に流して俺たちは歩き始めた。
「――はぁ。仕方ないことだって思ってもなんか嘘ついているみたいで後ろめたい気持ちになるわね」
「神様は地上の人間の息のかかった人間を必要以上に敵対視してた。当然探索者協会の、特に会長も当然それに当たるわけで、余計なことをこっちがつたえようものなら……。最悪の場合私は探索者協会の敵になって、それと契約してる2人も敵扱いになる。別に報告しないだけで、嘘をついてるわけではないんだからそんな気に掛ける必要なんてないわよ。そんなことよりもダンジョンに行くならまずは準備よ! 食料! 飲み物!」
そう。俺たちは敢えて神様のことを京極さんに伝えなかった。
ハチのいうように会長にそれが伝わった場合どうなるのか分からないから、というのもあるが……単純に怖かったから、という理由もある。
思えば地上についての情報はここダンジョン街には多く流れていないし、地上の人間を俺はほとんど見たことがない。
そしてそれを口に出してしまうことが大きな罪問われるような気がして……。
……。不思議だ。なんで俺は今までこんな風に考えたり、怖いと思ったことがなかったんだろう。
「――遥君、大丈夫? 顔色悪いけど。急がないといけない状況だとは思うけど、体調が悪いんじゃ……」
「だ、大丈夫です。それより、えっと何日か滞在するならちゃんと日持ちするものを買わないと。それに寝袋とかテントとか……あはは、それは流石に大きすぎて持っていけませんよね」
探索準備として少しテンションが高いハチを先頭に近くのスーパーに寄ったが、考え込みすぎていたのが陽葵さんにばれてしまった。
折角一緒に戦える、背中を任せてもらえるような関係になり得るところまで来たというのに……強くなったところでこんなんじゃ駄目だな、俺。
「寝袋、テント……。狭い中で2人っきり……」
「……。顔真っ赤もしかして。陽葵って結構むっつりだったりする」
「え!? ば、馬鹿なこと言わないで! 私これでも人より少ない方なんだから! 多くても週に2回とかで!」
「少ないって……なんの話? ちょっと私には分からないのだけど」
「ひ、陽葵さん。あんまりそういうことを大きな声で言うのは……」
「あっ! は、遥君、あの、今のは違くて、その……。あっ! 探索者協会からメール! メールが来てるわよ、ほら!」
誤魔化すように陽葵さんはスマホを俺とハチに見せつけてきた。
俺もこんな場が気まずくて取り合えずスマホを凝視。
京極さん、いくらなんでも仕事が早すぎ……ってこれ俺たちが更生施設で橋田を倒して直ぐくらいの時間に届いてるメールじゃないか。
まぁ重要なことは書かれてそうだし、読まない訳じゃないんだが。
それでえっと何々メールの内容は……。
『注意! 1階層から3階層にてモンスターと非常によく似た討伐不可能なモンスターが確認されています。遭遇した場合は批難をお願い致します』
「……。これって、さっきのダミーのことか? もしかして俺たちが脱獄に気づいたことがきっかけで捕縛を怖がりダンジョンに仕掛けを? このままだと他の階にも仕掛けを張られて……最悪これだけで多く被害者が出る。……陽葵さん、準備も早々にしないとまずい――」
――ピロン。
今度は新しいメール。えっと表題は……。
「これ探索者協会に関係ない文章ね。えっと……『大人のための道具を検索しがちなあなたにお勧め! ピンクの可愛らしいデザインとは裏腹に本格的な使い心地! あなたもこの振動にすぐ虜――』」
「わ! わあああああ! よ、読み上げないで! も、もう必要なものはこっちで決めるから! さ、さっさとダンジョンに行くわよ!」
脱獄犯によるダンジョン、ダンジョン街の危機による緊張感とはまるで違う緊張感を焦る陽葵さんから感じつつ、俺はしばらく黙った状態でダンジョンへと向かうのだった。
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