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97話 (慎二視点)楽しみ

「ちっ。とんでもない目にあったぜ。これもお前のワープスキルが中途半端だから――」

「リーダーだ。……それにしてもスキルの強化ができる存在と俺たちのことがバレた、か。これで施設にもあの階層にももう移動できなくなったな」

「それだけじゃねえぜ。このままだとダンジョンからダンジョン街、最悪『地上』への道まで警備が強ま……。ってリーダーはあの男のことを知ってたのか?」

「ああ。というか知らなかったのはお前くらいだ」

「なっ!? なんでそんな重要なこと黙ってたんだよ! 早く言ってくれてれば俺だってこの強化されたスキルで速攻レベルアップ! 戦闘班にだって混ざって――」



「――そういうとこが原因だ。血の気が多い奴が万が一ここで一番強くなってみろ、何をしでかすか分からんだろ。ということでお前の怪我も、完全には治さない。しばらくは今まで通り補給場所……いや、もう補給場所も危ないな」



 更生施設に複数ある収容所の1つ、その床に開けた穴からしばらく進んだ先にあったのはスキルを強化できる存在のいる部屋、補給場だった。

 補給場はダンジョン街の人間の言葉に直すと『地上物資倉庫』であり、一般の人間には侵入不可な場所。


 しかし運よくこれに辿り着いたのがワープスキルを保有している人間、リーダーと呼ばれるこの男。


 最初はこれが強化されたことを利用して補給場で美味い飯にありついただけだったらしいが、だんだんとより自由を求めるようになり……ついに脱獄を計画。

 リーダー、それに橋田や田中を含む罪人たちはワープスキルを用いて一気にダンジョン街に移動……はしなかった。


 というのもダンジョン街でスキルを使うとどういうことかそれを探知されたかのようにあっという間に探索者協会の人間や警備隊が押し寄せてくる。

 しかもそうしてやって来た人間は高レベルであり、いくらスキルが強化されたとはいえ罪人たちのそれを退ける力はない。


 だからダンジョンからダンジョン街への移動はあくまで入口を通る予定だった。

 とはいえ、何か起きた時のためにやはり高いレベルは必要。


 そう考えたリーダーたちは補給場から食料を盗みつつ、更生施設生活中にも関わらずダンジョンでのレベル上げを決行し始めたというわけで……そんな段階の脱獄準備中の輪の中に魅了チャームスキル持ちで便利であると判断された俺、幸村慎二も加わえられた。


 毎日毎日くそみたいな施設生活だけでなくたんぱくなレベル上げを繰り返す日々は苦でしかないはずだがここにいる奴らの目は今も光り、最終目標である自由の獲得……具体的に言うと『地上への逃亡』を達成するため各人の言葉に耳を傾け飲み込んでいる。


 これに例外はなく、現在血の気が多いと言われ不遇な扱いを受けている橋田でさえ、田中の言葉に反論しようとしないのがいい証拠だ。


 この光景だけ見るといい奴らに見えなくもないが……どいつもこいつも本当はクズなんだよな。

 ま、俺も人のことは言えないが。


「にしてもまずいことになりましたね。まさかワープスキルが暴発するなんて……。どうします、リーダー。いっそのこと正面からやっちゃいます? 俺たちの全員のスキルは強化済みで、レベルもそこそこですよ。可能性はあるんじゃ?」

「ないな。田中、お前も橋田から聞いただろ。信じられないことに奴らはあのオロチさえ仲間に加えたんだぞ」

「それは……。でも、こいつの魅了チャームがあればなんとかなりそうじゃないすか? スキルの強化も済んでますし! ほら! 慎二も『俺の力ならできます』って言って見せろって!」


 田中はこっちに視線を向けた。


 脱獄したいというのは同じだが、俺はこいつらと仲良しこよしをする予定は一切ないし、したいとも思っていない。

 だからそんなに時間も経っていないのにその呼び捨てやタメ口は不愉快だ。


 それに……。


「俺のスキルは残念ながら本当に強化されたのかどうなのかイマイチ分からない状態だ。その効果や範囲は高まっているらしいが……異性はここにいないしな」

「条件を満たす相手は女だけか……」


 俺の返答を聞き、考え込むようにリーダーは黙った。

 ちなみにだが魅了は別に女限定というわけでもないはずだが、女以外に使いたくはないから勝手に女限定ってことにしている。


「はぁ。それじゃあどうするんですか。ここでこうしてこそこそレベル上げしてたら施設の連中や探索者にあっという間に見つかって、今度は殺されかねないですよ」

「女、女、メス……。……。……。メス、か。オロチはもう無理だとしても……。……。だがこれは賭けだぞ……」

「何をぶつぶつ言ってるんですかリーダー。リーダーなんだからそういう陰気なところは――」

「田中! ……少し黙れ」


 独り言を発していたリーダーは声を凄ませた。

 そして数秒沈黙したかと思えば何かを決心したのか、ふっと息を吐くと真剣な眼差しを俺に向けた。


「なぁ。もしこの先にオロチよりも強力で、しかも美人なモンスターがこの先にいたとしたら……その時は快くその強化された魅了チャームを使ってくれるか?」


 思いがけない質問。

 だけどそれを聞いた俺の顔は勝手ににやけて……。


「それは、楽しみですね。あいつらを痛めつけるのも、そんな女、メスを屈服させて……いたぶるのも。く、ふふふ」

お読みいただきありがとうございます。

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