93話 硬
「それ、止めてくんない……かなっ!」
「危ないっ!」
「あれはその剣じゃ無理よ! ちょっと痛いけど、みんな我慢頂戴ね!」
苺のスキルの発動を見た橋田は、腕をフルスイングし、その身体に纏っているものを広範囲に飛ばした。
狙われた苺を守るために、陽葵さんはハチが産み出した剣で受け流そうとする。
だがハチはその飛散したものが、この部屋の壁に突き刺さる様子を見て、急いで竜たちを肉壁として顕現させた。
「ぐぉあっ!!」
「な、これはオロチ!? それも複数だと!?」
「オロチの子供、ではなく本体だったってわけか……。なるほどこれは手合わせ願いたいものだな!あっはっはっはっ!」
飛散したものが突き刺さり、叫び声を上げる竜たち。
その様子を見た橋田と錦さんは対極的な反応を見せた。
絶望の表情と満面の笑み。
もはやどっちが攻撃を受けているのか分からなくなる。
「笑ってる場合じゃないですよ錦さん! あのオロチがたった1人の攻撃で怯みまくって……。全部あいつ1人で倒すことも可能なのかもしれな――」
「『重ね着』、『超身体強化』『超身体強化』『超身体強化』『超身体強化』ああああぁぁあぁあ!! 退けお前ら! あれは俺の獲物、もとい仕事だ!」
怯む竜たちを肥大化させた腕で軽々と退かしながら、錦さんは震え声の宮平さんの言葉を無視して突っ込んでいった。
その姿に橋田は再び腕を振るおうとするが、それが間に合わないほどの移動速度で錦さんは橋田の懐に入ろうとする。
「あははははっ! 男ならやっぱり殴り合いだろ!」
「それはごめん被りたいねぇ!」
橋田は攻撃を受けないために後ろに飛んだ。
そして、その腕から身体に纏わりつく煌めくそれを飛ばす。
しかし錦さんはもうそれを避けようとも撃ち落とそうともせずに、頭を最小限守りながら飛んだ橋田の後を追い……とうとうその懐に潜り込んだ。
攻撃を受け、そこら中から血を流しているっていうのにまだ笑っているのは強い相手との戦闘が楽しくてしょうがないからなのだろう。
「お前収容者の俺たちよりよっぽどサイコパスだぞ」
「仕方ないだろ、だって楽しいんだから!」
筋肉隆々、肥大化した腕で橋田の身体を殴り続ける錦さん。
橋田の身体、というかその纏わりつくそれが硬すぎるからか、錦さんの拳はその度に傷付き血が滴るが、それでも錦さんの連打は止まらない。
橋田はダメージがあるのかそれを引き剥がそうとするも、どこか動きが鈍い。
とはいえ、錦さんの状態を鑑みるにこれ以上橋田に攻撃を許すわけにはいかない。
俺も殴り合いに参加して……。いや、その前にあいつの身体の柔い部分がないか調べるか。
『神測。硬度の低い箇所……関節部分。通常攻撃によってダメージを与えられるが、被ダメージもあり。並木遥と相手の身体の強度を比較……。被ダメージを受けないよう硬度を補完。防御ステータス向上――』
「『増長』、済み、だと?」
『神測』を発動させ、自分が強化されたことを知ると、同じタイミングで拘束された人は目を見開いて俺を見つめたのだった。
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