92話 増長
「収容者No16橋田真守。ユニークスキルは『硬質化』だったか?なんでお前がここにいる?いーや、そんなことは後で聞くとして……。どうやったかは知らんが、牢から抜け出した時点でお前はもう脱獄者。よって脱獄者であるお前には規則通りきついお仕置きをしないとな」
「!? こ、『硬質化』……腕っ!」
錦さんは目の前に突然現れた橋田という男に向かって拳を振り上げた。
すると橋田はすぐに自分の状況を察しスキルを発動。
その腕を光沢ある銀色に染め上げ、ガードを試みる。
しかし錦さんは躊躇など一切せずに、その腕部分を殴り 凹ませた。
「う゛っ! う、そだろ……」
「油断しすぎ」
ダメージが大きかったのだろう、橋田はうめき声を上げるとガードを緩めた。
その瞬間、今度は苺がその細い足で橋田の腹を蹴り飛ばし、一気に壁までふっ飛ばした。
あまりにも一方的なその攻防は、お仕置き……もっと言えばストレス解消の八つ当たりにも見えなくはない。
「ご愁傷さまだね。あの脱獄者。タイミングが悪すぎるよ」
「そうですね。でもまさか脱獄者が現れるなんて……案外この部屋以外の警備、収容システム、牢、これらの質が低いんですかね?」
「そんなはずはないと思うけどね……。まぁステータスが著しく高い君やハチさんにとってはどうかわからないけど、警備の人間の戦闘力はスキルを抜きにすれば僕よりも上、牢には最上級魔法までを完全無効化できる魔方陣が刻印され、各収容者たちのユニークスキルの把握とその対策として、牢はこの部屋よりは劣るけど苺ですら壊すことができないほど頑丈な素材を使っている……らしいよ。以前探索者を1人取っ捕まえる仕事を受けた時、受付で聞いた情報だから間違いないと思う」
「その通りだ。牢は簡単には抜け出せない。そもそも俺が把握している中に、こんな移動スキルを持っていた奴なんていなかったはずだが……。ま、こっからはそいつに聞いてみ――」
「『増長』……。人、間を……殺せ。そ、のために、俺は……力、を。リスクを……」
「……。は、はは。なるほど。そういうこと。あんたが本当の付与者ってことね。リーダーが急に覚醒っておかしいと思ってたんだよ。そんじゃあその期待に応える、俺なりの努力をしてやるよ。『硬質化・金剛』。ワープ再使用まで残り5分、か。まずは……そっちのちびからだな」
拘束された人が再び口を開くと、橋田は何か納得した様子を見せた後に笑った。
そしてその全身をより強固であろう姿、眩しいくらいに煌めきを放つ姿に変貌させると、苺に視線を送った。
「メロリン武器頂戴……。荒」
ただならぬ雰囲気に苺はモンスターから斧を受けとると、いきなり切り札のスキルを発動させようとしたのだった。
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