91話 拒否
「ハチ、もしかしてこの人が……」
「そうだと思う……だけど何かちょっと違う気もする。でも扉はいつもあの人が出てくるものと同じで……。もしこの人がダンジョンを作った、私の知ってる存在だとして……。人間に敵対して捕まった、そしてその力を抑制、或いは利用するために人間が敢えて見つかりにくい場所に隠した。しかも、スキルか何かで記憶を操作して」
「ダンジョンにの資源は俺たち、それに地上の人間にとって貴重な財源。だが、反対にモンスターという脅威を生み出すもの。それが引き起こすかもしれない災いを事前に潰すため、こうしてダンジョンのシステムをいじれるであろう存在をあいつらは生かしている。と、前の施設長は言っていた。何故あいつらがそのことを俺たちに隠しているのか、肝心なところはまだ思い出せないが……。起こった事実として、この件に深入りし出して数日後に前施設長は自宅にて自殺。俺の元に伝達がきた。更には事情聴取の人間が数日に渡って……。思えばあの時記憶をいじられたのかもしれない」
「記憶の操作……。今朝の気付きもそれに関連してるのかも知れない。この人間、そして地上に関心を持たせない意味、か……」
答えが出そうで出ないもどかしさに、フラストレーションがたまるが、それと同じくらい怒りも込み上げる。
自分たちの為だからとはいえ、こんなことをしていいわけがない。
人権妨害にも程が――
「あ、あぐ、あ゛っ――」
……喋った。てっきりもうそんなことさえできなくなってると思っていたが……。リスクがあるとはいえ、この状態の人を見過ごせたない。
「あの、聞こえますか?今錠を外しますから。食べ物とか飲み物とかは今後この外で、俺たちのモンスターたちと一緒に――」
「駄、目……だっ!」
枷に触れると、その人は今できる全力で俺の手を振り払った。
この人にはもう逃げるなんて考えはなく、このまま死なせてくれってことか?
それとも、これは俺たちに対する警告なのか?
「かなりの衰弱状態だっていうのに……。こうして動けるのはステータスや魔法、或いはスキルによるものなのか……。何か思い出せそうなんだが……駄目、か。あーもう、うだうだモヤモヤってのが1番嫌いだってのに――」
「あれ? いつもの補給場所に出なかったか。付与されただけの劣化版だと精度が低いってのは本当だったのか。時間も時間だし、あんまり無駄はできないんだけど……。ってここ匂いヤバ――」
疑問符が頭の中を跳ね回り、全員が次の行動に移れずにいると、俺たちの目の前に今度は囚人服をきた男が唐突に姿を見せた。
陽葵さん、ハチ、宮平さん、苺は驚きのあまり目を見開いているが、錦さんだけは嬉しそうにその口角を上げていた。
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