89話 巻き込まれ
「……」
「とにかく、だ。ここは少数のモンスターが湧くようになった。スライムは魔力が感知できるものなら汚物をも取り込む習性があるから、排泄物の処理は勝手に行われる。便器が使えないモンスター達でも安心ってわけだ。それにそのうちコボルトやバトルボアなんていう食肉になり得る弱いモンスターも湧くから食料も十分。飲み水の確保として、水道は引いてあって、定期的にそっちの水飲み場から水が流れる仕様だ。人間なら常にモンスターの湧く場所に監禁なんてあり得ないと思うが、元々そういった状況下で生きてきたモンスターならなんてことはないだろ?」
「……確かにね。それにモンスター同士なら、いくら知能が低い個体、種族でも、格付けが完了してしまえば無闇に襲ってくることはないはず。だから一先ずは大丈夫なんじゃない?」
不可思議な錦さんの様子に、ついつい黙り込んでしまっていると、錦さんは本来の目的を果たすように、説明を始めた。
これに対してハチは、昨日の自分の状態とダブって見えたのか、少し慌てた口調にも聞こえる錦さんを思って、そこには何も触れずに返事をする。
混濁した記憶。
今朝のゲームやSNSに感じた違和感。
モンスターと触れあうことが原因なのか、俺たちは何かその先に潜む真実に知らぬ間に近づいているのかもしれない。
ただ、それに対して興味はないのだが。
これをきっかけに変なことに巻き込まれるのだけは勘弁だぞ。
「それじゃあ僕たちの契約してるモンスターを早速預かってもらってもいいですか?ちゃんとした預かり所ができるまではちょくちょく見にくるので」
「元よりそのつもりだ。それに俺としてもお前らがここに来てくれるのはありがたい。ここで仕事をしていると身体が鈍って仕方がないんだよ」
「いや、戦うのは勘弁して欲しいんですけど……。まったく、あれだけ派手にやられてよくまだそんなに闘争本能剥き出しでいられますね。というか、怪我とか大丈夫なんですか?」
「怪我?打ち身の1ヶ所2ヶ所、怪我とは言わん言わん!それよりもスライムはどこへ行った?」
「部屋の住みに逃げて行きましたよ。僕たちのモンスターも怖がってしまうので、『威圧』解いてもらってもいいですか?」
「ん? 俺はさっき吹っ飛ばされた拍子にスキルが解けて……この気配は並木の仕業じゃないか?」
「いいえ、俺じゃないです。陽葵さん、苺……ハチは――」
「私でもないわ」
「となるとこの外にいるモンスター……或いは人間、か」
思わぬ気配に空気は張り詰め、各々が唾を飲み込み、喉が鳴った。
錦さんの表情も真剣そのもの。
不運なことに、俺たちは面倒なイレギュラーに巻き込まれてしまったようだ。
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