88話 発生
「ちょっとやりすぎたか?あ、あの大丈夫ですか?」
「い、てて……。レベル4000てのは伊達じゃないな。馬鹿正直な正面からの殴り合いじゃ、これっぽっちも勝機がない。ただ、ダメージを与えられないわけでも、動きが見えないわけでもない。武術の心得みたいなものはあるようだが、極めたそれじゃない。まだまだ戦える。戦いようがある。これは……己れを高められる絶好の機会。今両手を上げて降参するのは、勿体ないってもんよ!」
普通の人であれば動けなくなってもおかしくない一撃だった。
だが錦さんは立ち上がるだけではなく、今を楽しむように再びその拳を握って、大きく一歩踏み込んだ。
すると、初撃の時と同じように錦さんは視界から消え去った。
おそらくこれもスキル。
錦さんは派手な攻撃スキルや魔法を有さない代わりに、ステゴロの『喧嘩』において有能なスキルばかりを取り揃えているようだ。
『――神測。右斜め下、被弾まで残り1秒』
「確かに俺は武術に秀でてはいないです。けど、2度同じ手が通じるとは思わないでください」
「視線を変えることなく打ってきたか。それに当てずっぽうってわけでもなさそうだな」
『神測』によって把握した場所へ、その姿を捉えるよりも先に適当に、雑に拳を振り下ろした。
位置は悪くなかったのだろうが、あまりに雑な攻撃だったからだろう、錦さんはそれを回避し、後方へ逃げた。
上手いこと不意打ちになり、完全に捉えられたと思ったのだがな。
「一体どんなスキルを使ったのか知らないが面白くなってき――」
「あれは……。地上に、モンスター?」
お互い次の攻防に備えて構えをとると、いつの間にか間に1匹のスライムが割って入ってきていた。
「もうアクティブ化されたか。案外早いな。まったく……。ここからが本番だってのに」
「アクティブ化ってなんですか? なんでここにモンスターが湧いて――」
「ここが本当の地上じゃない。もっと言えば、少し下に進むだけで俺たちにとって馴染み深いダンジョンって扱いになるからだ。因みにあんまり下に掘り進めると、1階層上空に出て下手すりゃ落下死。そもそも空気ができないような場所に出るらしくてな、その掘ってできた穴周辺では息ができなくて死んじまうらしい。ま、俺も前に興味本意で地面を堀ったことはあるが、ありゃ硬すぎてお前さんでも無理だ。そこまで掘り進めることができる奴なんておそらくはいねえな」
「ということは俺たちの使っている出入り口は転移に近い仕組みが取り入れられてるのかもしれない、と」
「というより、これもダンジョンのシステムの1つって感じだろうな。そんでアクティブ化についてだったな。モンスターの発生条件をクリアして恒常的にモンスターを発生させられる状態にする。これがアクティブ化だ。わざわざ戦闘を仕掛けたのもこの条件、『人間の存在感知』を満たすため。曖昧で不安定な場所だから度々派手に動かないとモンスターが出現しなくなるんだと」
「だからってあんな戦い……。遥君が万が一重傷を負ったらどうするつもりだったのよ! それその曖昧な感じ……。知識だけで、実際にそれでどうにかなるって確証がないままだなんて信じられないわ」
「あははは! そんなに怒るなって橘。それに確証なら……あれ? 言われるとない、いや知らない、いいや知っていた、ような……」
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