86話 不意打ち
「よっと……。ふぃぃ。やれやれようやっと開いたか。やっぱり何人か連れてくるべきだったか?」
「……。は、はは。相変わらずの筋肉お化けですね。こんなの普通の人だったらびくともしませんよ」
「は? そんなに驚くこともないだろ。同じランク10なんだから。ほら、こんなちんまい苺だって動かせるんだぞ」
「はぁはぁはぁ……。力だけはまだまだ追い付けない、か。悔しい、ぐやじぃぃいぃ!」
「あっはっはっはっは! 負けず嫌いは健在だな!」
施設長の錦さんに連れられて1時間。
30桁以上のパスワード、指紋認証、虹彩認証、分厚すぎる鉄の扉。
漫画の世界でしか見たことがない、厳重過ぎるセキュリティを抜けて俺たちはようやくモンスターの預かり所にたどり着いたらしい。
因みに最後の扉に関してだが、錦さんは約10秒かけて開いてみせたが、苺の場合10秒で数センチだけ。
あの苺でさえ、錦さんの筋力の前だと霞んでしまう。
服の上からでも分かる隆起した筋肉。
これもスキル影響しているのか?
「施設長の怪力も凄いけど、ここまでのセキュリティー……。確かにスキルを扱える相手を閉じ込めるならここまでの設備が必要なのかしら?まぁなんにせよ、モンスターを閉じ込めておくには申し分ない場所ね。それに広さも十分。ここならあの子達も……」
「この扉含め中の壁や天井は魔力を内包したインゴットで作られている。会長のリンドヴルムでもほんの少し、引っ掻き傷をつけられた程度。そのあの子達ってのがどんなモンスターなのかはわからないが、勝手に逃げ出すことはできんだろうな。そんでもって逆に連れ出される恐れもない。ま、安心して預けてくれや」
「そ、そうね。助かるわ。それより、こんなに凄いインゴットがあるなら、それだけ強力な武器が作れるはずよね?なんで協会はそれをしないの?」
「……。加工技術がまだ間に合ってないらしい。地上にあるいくつもの企業が試みてはいるらしいんだが……その進捗は芳しくないらしい」
うっかり自分がオロチであるというヒントを与えてしまうハチ。
一瞬訝しげな表情を見せた錦さんだったが、それを誤魔化そうとするハチと、場に漂った緊張感を察したのか、それについてあえて深入りはしてこない。
「……。私から質問いいかしら?」
「えーと、橘だったか?いいぞ。なんだ?」
「ここには元々誰を何を閉じ込めておく予定だったの?そこまで危険な存在って過去を遡ってもオロチくらいしか思い付かないわ」
「それは……。俺もわからん。まぁなんだ、備えあれば憂いなしってやつじゃないのか?」
「そう、なのかしら?」
「そんな反応されてもなぁ。わからんことにずっと頭を悩ませても仕方ないぞ。ってことでこの部屋での食事と排泄について説明するんだが……。その前に――」
俺の目の前から唐突に錦さんの姿が消えた。
だが、その移動音は消えていない。
錦さんは……既に俺の懐にいる。
「『超身体強化』」
「ほう。これについてこれるのか……。しかも、大層なガードまで。なら俺も……『超身体強化』!」
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