85話 施設長
「ど、どうもぉ、えっとその、探索者協会の井手口さんから連絡が――」
「来たな、宮平」
「うっ。や、やっぱり……。お久しぶりです、錦さん」
「やっぱり……。いや宮平、俺お前に更正施設のトップに就いたって言ってなかったよな。そもそも、この施設内で働いている人間は、命を狙われる可能性も考慮してそのことを秘匿とさせてもらっているんだが?」
「……。あれだけ探索者として貪欲に、それでもって正義感丸出しで新米探索者たちをいびってるベテラン探索者たちを取り締まってた人が急に息を潜めて……。死んだって報道もなければ、探索者として引退したという話も聞かない。となれば新しくランク10の探索者が施設長となった、という情報だけで錦さんを知る人はあらかた察することができたと思いますよ。だからこそ、ベテラン探索者たちは余計に更正施設送りを恐れてるって話も聞きます」
「なるほど。なんだなんだもっとびっくりすると思って期待していたのに……。こりゃあ、不完全燃焼だ。このモヤモヤを晴らす手助けに一勝負だけどうだ、宮平」
「お、お断りさせてもらいます。僕が錦さんに勝てるわけないじゃないですか」
「俺はスキルも魔法も使わん。そっちはスキルも魔法も、モンスターだって使ってもらって構わないぞ」
「……それ、いつもとほぼ条件変わらないって知ってて言ってます?そんなことより、今日はモンスターを預ける場所を視察しにきたんですけど――」
「お、お前さんたちが噂の探索者か! 話は聞いてるぞ! それで……なかなかに強いらしいな。レベル4000、その実力を見たっていう俺の知り合い探索者がべた褒めしてたぞ」
「聞いてないし……」
更正施設の正面扉を抜けると、俺たちを待ち構えていた大男。
話の内容からこの人が施設長で間違いない。
宮平さんとの会話から後輩に話しかけるようなラフさも感じるが、ひしひしと伝わる強者のオーラは嫌でも緊張してしまう。
それに間違いなく、俺はこの人に恐怖をも感じてしまっている。
ただ、ここで怖じ気づくなんてカッコ悪いことをすれば直ぐに舐められる。
俺だって、俺の方が強いのだから、胸を張れ。
「初めまして、俺は並木遥。それでこっちがダンジョンで仲間になったハチ、それに同じく仲間になってもらった橘陽葵さんです」
「どうも……あのね、早速こんなこというのはあれかなって思ったんだけど……スキルで相手を試すようなのはやめた方がいいわよ」
「ハチさん! こういった施設で働いている人なんだからこれくらいは許してあげましょうよ。……。え、えーと橘陽葵です。今日はよろしくお願いします」
「……。ふ、錦秀哉。更正施設長を務めているランク10の探索者だ。こちらこそよろしくな。それにしても……ふははははは! 新しい顔はどいつもこいつも肝が据わっている。本気で『威圧』したってのに、いい面構えだ。それならこっから先に連れていっても、ここの奴らに気圧されないで済むだろうさ。そんじゃついてきな。モンスター預かり所、この施設で最も厳重な部屋に連れてってやるよ」
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