84話 嫌い
更正施設……。
正直なところあまり気が進まない。
凶悪な人間、それに慎二があそこにはいる。
顔を合わせるということはないのかもしれないが、もし会えば嫉妬深くて執念強いあいつのことだ、何をしようとしてくるかわかったもんじゃない。
そうなれば更正施設の人に迷惑を掛ける可能性もあり……。いや、これらは全部それらしい言い訳だ。単純に俺はあいつの顔をもう見たくはない。
それはあいつがとことん嫌いだから、そして心の奥底に、長い付き合いだったからなのか、若干の罪悪感があるから。
「その、悪いんですけど――」
「私も今後契約するモンスターを預ける場所は見ておきたいわね。それに収容されている人間がどうなったのか、というより慎二がひいひい言ってる姿を見に行くのは悪くないんじゃないかしら?」
「陽葵さん……」
「慎二のことは私も勿論嫌いで、会いたくない。でも、あいつがいるからって自分のあれやこれを制限されるのはもっと嫌なの。それで、だったら、どうせだから、慎二の今の状況を見て……いい気味だって、そう笑ってやろうかなって。実は私慎二に対してまだ恨みみたいなのが残っててね。でもそんな感情も全部これで洗い流す。完全に忘れてみせる。遥君もこれを機にあんな奴のこと忘れたほうがいいわ」
俺が知らないところでどれだけのことをされたのかはわからない。
だが、それは陽葵さんにとって間違いなく大きな傷となっている。
それなのにこうして言ってみせる陽葵さんは、あまりにも気高い。
こんなの、断れるわけがない。
「……そうですね。そうさせてもらいます。俺たちも宮平さんついて行っていいですか?」
「勿論。と、いうことで僕たちは更正施設に向かわせてもらいます。場所の紹介、入場はあなたが担当してくれるんですか?」
「私はここ、持ち場から離れませんので、更正施設で働いている方に改めてお願いしておきますね。実は施設に預かり所を設ける話を早い時間にしたとき、今日中に誰かそちらに向かうかも、とお伝えさせてもらっていたんです。私の名前をお伝えいただければ、対応してくださるはずですので、そのまま向かってもらって大丈夫です。あ、何かあれば協会宛に連絡を下さい」
「分かりました。ありがとうございます。それで、その担当してくれる方って施設長とかじゃ――」
「それは着いてからのお楽しみです。それではみなさん今日も頑張ってください」
微笑む受付の女性に手を振られ外に出る。
しかし、宮平さんの表情はどこか雲ていて、その足は重たげだ。
「その、そんなに担当の人が苦手ですか?」
「苦手だけど……。遥君たちの魅了の慎二に対する嫌悪ほどじゃないよ。ふぅ……。心配させてごめん。さ、行くぞ更正施設!」
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