83話 消失
「単純に興味がなかっただけかも。私、ランク10になるまで、生活のため、何よりも探索が優先だった。だから学校も中学まで」
「……。中学は地上の中学校だったか?」
「こっち。私の時はもう、地上でってことなくなった。ちゃんとこっちに学校できてたから」
「そうか……」
「まぁ今思えばわざわざ地上の学校に通う必要なんてないものね。そもそも登校方法も特殊で……」
「……。陽葵さんも違和感を感じましたか」
何故今の今まで不思議と思わなかったのか。
俺たちはその道のりを知らない。知らないのが当たり前。
自分が……ここに暮らしているということ、ダンジョンという単語すら地上で発した記憶がない。
「私たちってもしかして……。うっ」
「う、あ……」
「陽葵さん、苺、だいじょ――。つっ……」
頭痛。それも強烈な。
駄目だ。余計なことは考えられなくなる。
これは……昨日の、ハチと似た突発的な――
「危ない危ないイベント来週まで大丈夫だったわ。0と8を見間違うなんて……。私まだまだ若いんだけどなぁ。ね、遥様もこのまだぴっちぴちだって思……。ってどうしたのよみんなして」
「いや、その……。あれ?俺……」
「私まだ寝ぼけてたのかしら?」
「私も」
頭痛が消えるのと同時に脳内から何かがすっと消えていった。
大事なことだった気はするが、全く思い出せない。
「えっと……。各自準備体操が終わったら、オススメのランニングコースを教えてあげるわね」
「なんか歯切れ悪いわね陽葵。もしかしてお通じ良くないとか?そういえば遥様が起きるまで随分と長く――」
「みんな、体操は入念にね! 私のランニングはハイペース、マラソン大会だと思って覚悟したほうがいいわよ!」
陽葵さんがハチの挑発ともとれる言葉を遮ると、俺たちはまるで何もなかったかのように、ランニングを始め、いつの間にかモヤついた気持ちは晴れ……るどころか、そんなものを考える余裕すらなくなっていた。
「――み、みなさん。おはようございます……。なんか顔青白いですけど大丈夫ですか?」
「あはは、大丈夫ですよ。ちょっとハッスルしちゃっただけらしいので。な、苺」
「みやも明日から来た方が、いい」
「宮平さん、早朝から運動は気持ちが……いいですよ」
「遥様の言う通りだわ……」
「あはは。僕はジムに通ってるから……」
探索者協会受付。
今日は京極さんとは別の方みたいで、第一声は緊張した様子だったが、俺たちの顔を見るなり、緊張はどこへやら、咄嗟に心配をしてくれた。
ちなみに苺曰くここを担当している方は、モンスターとの契約について知ってはいるが、京極さん以外会長の秘密は知らないらしい。
陽葵さんの鍛練。あれは朝から行うものじゃない。
昨晩のすき焼きが口から出てきそうだ。
「それで、褒賞金についてなんですけど」
「はい。宮平さんにと、お預かりしています。でも本当に現金でよろしいんですか?」
「はい。直ぐに支払う用があるので」
「分かりました。直ぐに御用意致します。それと、施設の件ですが、更正施設の隣でどうかと提案が」
「更正施設……あんまりいい場所じゃないですね。あそこ喚き声とか漏れてて……」
「そうなんですけど、あそこなら万が一バレた時、探索者たちを押さえつけるためにモンスターを近くに用意していた、と言い訳ができるそうなので」
「なるほど、それで」
「はい。という訳で今お連れのモンスターたちを狭くて申し訳ないのは分かっているんですけど、その更正施設に預けられるよう話をつけてあってですね。良ければ今日そこのご紹介もしたいな、と」
「メロリンたちの仮屋……見に行く」
「預かり所ね……私もあの子達のことを考えると……。遥様、一緒について行くのはどうかしら?」
お読みいただきありがとうございます。
モチベーション維持のためブクマ、評価よろしくお願いします。




