81話 システム
「――それで4階層、5階層の統率モンスターと契約……ですか。契約者は宮平さんと苺ちゃんで、2人はこれで2匹との契約に成功。上限とかってあるんですかね?オロ、ハチさん」
「上限があろうとなかろうと……1匹と契約するのにこんなに手間も時間も掛かるって知ってたなら手伝いなんてしなければ良かったわ」
「そうね。ナーガや火竜の報告も早くしたかったし、ハチさんや苺ちゃんの状況を考慮してもあんなに契約に拘る必要はなかったかもしれないわ」
「私はお金、貰えるなら別に。ただちょっと疲れたかも」
「その……ごめん。でも火竜のお陰でモンスターたちの心も身体も弱ってて……これでもいつもより簡単に誤解させられたし、契約もスムーズだったんだよ。それに遥君がまだまだ元気そうだったから、こんな機会なかなかないと思って……」
結局あれから4階層5階層の探索をこなした俺たちは、ようやく探索者協会に戻って来ることができた。
時刻はまもなく0時を回ろうとしていて、俺たちだけではなく、京極さんにも疲労の色が見える。
普段はとっくに退勤している時間らしいのだが、宮平さんと苺によるダンジョンの状況確認は必ず今日中にしたいと思って、自主的に残業をしているのだとか。
「とにかくそのナーガ、更には火竜の存在には以後気を付けて下さい。さて、6階層以降の侵入にはランク制限をや人数制限を設けないと……。それに、4階層5階層の統率モンスターは再発生が早いんですよね? なら早めにその注意メッセージを探索者全員に伝えないと。万が一そんな強敵と出くわして命を落とした、何てことは避けないといけませんし……。明日は非番ですけど、他の同僚にそれらの手配をお願いして――」
「そ、それじゃあ褒賞金は後日受け取りに来るので今日のところは」
「了解しました、宮平さん。モンスターが増えたということ、それに今後増大する見込みがあると、会長には強く説明しておきますね」
「お願いします」
「頼んだ、京極」
「それでは皆さん本日はお疲れ様でした」
京極さんに目一杯の笑顔で見送られると、宮平さんたちとは解散、3人で俺の住まいに向かう。
「それにしても今日は疲れたわね。とてもじゃないけどあのままダンジョンに籠るなんて無理よね」
「そうですね……」
「あら、折角仕事を終えたっていうのに浮かない顔じゃない」
「いや、大したことではないんですけど……」
「火竜のことが心配?」
「それもあります。だけどモンスターとの契約方法があまりにも違っていて……。血の契約。自らの血を飲み込ませるために、まずはモンスターの死体を食わせて訓練……。モンスターが人の血を拒むとは思いませんでした」
「モンスターが人を食べたっていう、事例はごまんとあるのにね」
「恐らくだけど、普段はダンジョンのシステム? で食べているだけで、本当は食べたくないのかもしれないわね。なんでなのかは私にも分からないけど……壁や武器よりもモンスターの方があのスキル、誤解が効きやすいのは、前者はそういったシステムを上書きする必要がないからだったりして……。ま、あくまで考察にすぎないんだけど」
「でもそれなら合点がいくわ。モンスターが人間を襲うのはダンジョンの意思、か。それが本当だとするなら、ダンジョンを作った人物は人を相当憎んでいたのか、それとも恐れていたのか。とにかく私たちの敵ではありそうね……。ま、難しいことは後にして、今日は一杯食べましょう!」
「そうね。約束通りとびっきり美味しいもの期待してるわ」
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