80話 もっと強く
「――というわけでって……。そんな簡単に全部理解して咀嚼してそれでオロチのことは黙ってろってさぁ……。僕縛られるのってあんまり隙じゃないんだけど……」
「じゃあ口封じしないと……。私、まだまだ外で美味しいもの食べて課金して、やりたいことだらけなのよね」
「正体知った上でその脅迫は恐ろし過ぎるよ。……。はぉ。まさか最強最悪の敵が味方になっているなんて……でも火竜のことを考えれば、プラスなのかな?」
「……。万が一戦うようなことになった場合はそうかもね。ただ、今のままで勝てるとは思えないけど」
「そんなに強いの?火竜ってのは」
「理由がないと戦わないだけで、もっとちゃんとしていればこんな浅い階層に関与する存在じゃない。奴の管轄が31階層から60階層って、ゲームなら鬼畜仕様だと思うわ。対応適正レベルでいえば……7500くらいってところじゃないかしらね」
一通り宮平さんに状況を説明すると、今度はハチが淡々と火竜について話をしてくれた。
その様子を見るに、昔の記憶に意識を集中させないように気を付けているのかもしれない。
「は、はは。7500……。レベル4000ってだけでもおかしい数字なのに」
「ま、それはあくまで討伐対応適正レベル。自衛するだけならもっとレベルが低くてもなんとかなると思うわ。あなたの『誤解』を使ったモンスターとの契約もあるわけだし、人間は私に対して酒という弱点をついてきた。数字だけじゃ推し量れない部分っていうのはあるはずよ」
「契約に弱点……。強さとか戦いとか、ある程度突き詰められてると思ってたんだけど……まだまだだったってことかぁ」
宮平さんはすっかり疲れきってその場に腰かける苺を見ながらため息を溢した。
「こいつも強いと思ったけど……。契約モンスターの質、それに量も上げないとな」
「出来るだけ早く強くなるためなら、それが賢明でしょうね。……。ナーガは特段何かを持ち運ぶようなスキル、魔法に長けてるわけじゃない。もしかしたら殺してるかもしれないけど、私たちみたく軽くじゃれあうみたいな形で瀕死にさせられた統率モンスター、それは契約させやすいかもね」
「あれだけ強いモンスターと契約……苺まだ強くなれる?」
「多分ね。でもそれだけに頼らなくても、人間はまだレベルがカンストしていないのが殆んどでしょ?苺だけじゃなくて、まだまだ種全体の強さは引き上げられるわよ。私はそこに関して協力するつもりはないけど……」
「鍛練なら私が付き合うわ。取りあえずレベル上げ、じゃなくてその前の基礎体力をつけるところから始めたいから……。明日の朝は皆でマラソンね! 苺と宮平さんも忘れず来なさい」
「ok」
「え? えーと……。ぼ、僕はその……。あっ! こんな話をしていたらあっという間に時間が経ったなぁ! そろそろ下に行っても大丈夫なんじゃないかなぁ? よーし、せっかくここまで来たんだからやっぱり仕事はこなして、ついでに4階層と5階層のモンスターと契約するぞお!」
「……みや、逃げた」
「逃げたわね」
「気持ちは分からなくないけど……。帰る気満々だったんだけどなぁ、私」
女性陣の冷たい視線を受けながらも、宮平さんは勝手に下の階層へ。
ボロボロな状態の人も多いから、俺も帰還を優先したかったが……。
俺まで冷たくするのは流石に可愛そうか。
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