79話 トラウマ
「……。が、あ゛っ!」
「!?」
ナーガと向かい合ったマザーウルフは、蛇に睨まれた蛙状態で動けずにいたが、ナーガによる突然の咆哮で身体をびくつかせた挙げ句、黒いモヤだけをその場に残して逃走を図った。
重たそうな身体を必死に動かし、下の階層に向かうその姿はあまりにも滑稽。
こんな情けないモンスターだと知ってしまうと、俺の場合興味が冷めてしまうが……ナーガはその姿を嬉しそうに見つめ、笑った。
そして次の瞬間、全身から炎を吹き出したナーガは、炎を翼状に形成、高く飛び上がり、高速の滑空を開始した。
翼状の炎からは火の粉が舞い、俺たちにも降りかかる。
だが、それによる熱さなんか気にならないくらい、燦々と煌めくナーガの姿は俺たちの視線を奪ってくれる。
「――ぐっ、お……」
「一撃で、仕留めた……。最後モンスターの肉壁、作ったのに。大したスキル使ってるように見えなかったのに……わたしの切り札より、凄かった」
「これがレベル差による蹂躙ってやつだな。この階層にもうあいつは現れないだろうが……京極さんに今回のことは報告しないと」
「……」
「大丈夫か、ハチ」
滑空からの尻尾叩きが決まると、マザーウルフは気絶。
残された黒いモヤは消え、ナーガは瀕死のマザーウルフを片手で掴み上げてその場から去った。
意外な結末を迎えた探索に、全員の気が抜けると、1人ハチだけが未だに戦闘中かのような表情を見せていた。
俺はそんなハチを気遣って声を掛けたのだが……
「……」
「おい、ハチ!」
「ひっ! あ、ごめん、なさい」
「……。こっちこそ悪かった。急に大きな声を出して。だが、その火竜はまだ眠ってるってことなんだろ? ならそんなに怯えなくても」
「そう、なんだけどね。はは、ちょっと昔を思い出して……。あいつは善とか悪とか考えない。純粋に自分が楽しむためだけに、いらない存在を排除する。そう、私でさえそうしようとした……。最初はそうじゃなかったはずだけど……あれ?何か、私……」
「トラウマ、か。相当厳しい戦いだったんだろうな、特別になるための席争いは。無理に思い出そうとしなくていい。それに頭痛のこともある。今日は帰ってゆっくり休んで……その、課金用に今回手に入れた素材は全部ハチにあげてもいい。それと、帰ったらカップラーメンなんかよりうまいもの食わせてやろうか?」
「え!? 本当に!?」
「ハチさん……」
悲壮感漂うハチを励まそうと、提案を持ちかける。
すると、嘘みたいに満面の笑みでハチは目を輝かせた。
現金過ぎるハチに陽葵さんはやれやれといった表情だが、変に元気がないよりこっちの方が良くないか?
「――あっ! ごめんごめん! 思ったより時間がかかって……。ってなにその竜!? え? それ、オオオオオオオオオオロチじゃないか!? しかも沢山!? 全員急いで武器を構えて!僕の指示通りの陣形で、それでなんとか隙を作って……僕のスキルで一か八か――」
「みや……。流行りに遅れてる」
「え? それどういうこと? なんでそんなに余裕そうなんだよ苺。というかメロリン丸出しって!? 一体何があったってのさ!」
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