78話 ナーガ
「蛇……とはちょっと違うな。顔も足も完全に蛇のそれだが、胴体が人間の形に似ているし、腕もある」
「……ナーガ。火竜の、あいつの使い魔。私の魔法の威力が情けなくなったのもあれのせい。気を付けて。対応適正レベルは間違いなく4桁。倒せないことはないけど、無傷でってのは難しい相手よ。それに……あれを刺激することは、寝ている火竜を起こし兼ねないということ。万が一火竜が起きてしまえば……そのときの機嫌にもよるだろうけど、この場の殆んどが死ぬわ」
ハチは声を凄ませて、陽葵さんや竜たち、それに俺の顔を見た。
どうやら死ぬ対象にレベル4000の俺も含まれているらしい。
「そうと分かれば撤退するしかないか……」
「そうね。なにもしなければナーガは主人である火竜の元に戻ろうとするはずだから、放って置いても上に害はないはず。ただ、統率モンスターは倒しておかないと、今後も高レベルのモンスターを召喚し続けて……最悪、私以上のモンスターがこの階層に現れるかもしれないわね」
「ずっと同じような雑魚モンスターしか召喚できていなかったはずだが……。なんで急にあんなやつが……」
「多分だけど、さっきの……苺のモンスターの一部を補食したのが原因じゃないかしら。きっと自分が食ったモンスター、或いはそれに似たモンスターを産み出せるスキル持ちなのよ」
「……ごめん。私が、あいつ仕留めきれなかったから」
「苺……。そんなこと気にしなくていい。それより、無事でなによりだ」
俺とハチがナーガの様子を観察しながら次の行動に頭を悩ませていると、姿を消していた苺とそのモンスターが真横に現れた。
今まで俺たちに気配を悟らせなかった苺と宮平さん。
それはこのモンスターの力によるものもあったのだろう。
「ぐぅる……」
「モンスターの方はダメージはあるけど……治りそうね」
「メロリンはトカゲに似てて、時間はかかるけど尻尾なら再生できる。それより……ハチ、オロチだったんだ」
「そうよ。私がオロチで遥様の契約モンスター。これあんまりバレると良くないから黙っててね」
「分かってる。それより……あれ、こっち見てる」
ナーガの視線が俺たちに向けられる。
何か考えている様子を見るに、マザーウルフによる洗脳はないようだ。
「今なら……。気刃十文字!」
「まずい――」
俺たちの会話を耳に入れられる距離にいなかった陽葵さんと竜たちが一斉に攻撃を仕掛けた。
刺激を与えてはまずいと思い俺は咄嗟に口を開くが、時既に遅し。
陽葵さんの攻撃は素直にナーガに届いた。
だが……
「……」
「なによ、それ。全く効いてないって言いたいの?それとも、興味がないとでも?」
ナーガは攻撃を受けた箇所をポリポリと掻くと、陽葵さんや竜たちに興味無しといった様子で、今度はマザーウルフに視線を送った。
刺激を与えるどころか、相手にもされなかったのだ。
俺としては都合がいいが、陽葵さんのプライドは傷ついただろうな。
「あいつ……マザーウルフと戦うつもりか?」
「戦うというよりも……。捕獲、かも知れないわね。攻撃をわざわざ受けたのは、手土産の品定めで……マザーウルフを持ち帰ろうとしてるのよ、きっと」
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