77話 赤い鱗
「竜、種……。他にまだいたの? ……いえ、竜種でしっかり個として独立しているモンスターがあんな簡単に食われるわけない……。似てるけど、微妙に違うモンスターね」
「ともかく、苺は戦える状態じゃない。それにあいつの対応適正レベル……。接近するとあの口にやられる可能性もあるから、今度は本体狙いで――」
「わ、ぅぅ……」
スキルで攻撃を仕掛けようとすると、マザーウルフは少し苦しそうな声色で鳴き、自身の腹を膨らませた。
そして、毛穴から黒い気体を吹き出すと再び黒い塊状態に。
自分をその状態にするメリット……防御力を上げるなどの身体強化的役割や触手を作るということよりは、不意を突く形でモンスターを登場させる、また産み出すという行為を邪魔されないために秘部を隠すという役割が強そうではある。
というのも、苺の契約しているモンスターを追撃することよりも、それを纏うことを優先するその一瞬の表情に焦りのようなものを感じたからで、それはまるで自分の子を守ろうとする母親に近しい雰囲気だったのだ。
「モンスターとはいえ、そんな母性を見せられるとどうしても、だな。多分体内にはモンスターがまだ複数……」
「でもあいつはあの口でそれを食うわよ。そんなやつに躊躇なんて必要ないの。神話級魔法『涙の雫』」
ハチはマザーウルフの頭上に魔法陣を展開。
魔力の消費がこたえたのか、辛そうな表情を見せるものの、魔法の行使は途絶えない。
その名前通り、魔法陣からは1粒の、涙のような透き通る雫が零れ落ちる。
神話級と知っていなければ大したことはないと、思ってしまいそうなそれに対して、マザーウルフは 大量のモンスターを黒いモヤから出現させ、肉壁で防御しようと試みる。
しかし神話級、しかもハチによる魔法がそんなもので防ぎきれるわけがない。
「爆なさい」
雫がモンスターに触れた途端起きた大爆発。
その爆風によって、苺のモンスターは透明を維持できず壁まで吹き飛ばされた。
マザーウルフとの距離が近かった、更には怪我を抱えていた、という状態ではあったものの、モンスターの体格は凄まじく、身長だけで言えば5mはあるであろう巨体。
それを吹っ飛ばすほどの爆風の中心だ、最悪マザーウルフは剥ぎ取りもできないほど木っ端微塵になっていてもおかしくはな――
「この程度の、威力?なんで?どうして?どうして……こいつは生きてるの?」
あり得ないという表情のハチ。
その真意を探るため、俺はハチの目を借りて、煙で見にくい爆心地を凝視した。
「確かに生きてる。それに……なんかいるな」
「これは……。そうか、あれだけのモンスターを産み出せるなんて不可思議だと思っていたけど……正確には召喚していたのね。じゃないとあれがここにいるのはおかしい。だってあれは……」
次第に晴れる煙。
それと共に俺たちの目の前には赤い鱗の蛇に似た身体のモンスターが姿を現すのだった。
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