76話 切り札
「『気刃十文字』!! 苺ちゃん大丈夫つ!?」
「はぁはぁはぁ、だ、いじょうぶ……。ただ手数、多いだけ」
黒いモヤを十字の斬撃で突破すると、そこには触手のようにうねうねと駆け回る黒いモヤと、それを避け続ける苺の姿があった。
触手の出所は黒い塊に見えるが……おそらくあれがこの階層の統率モンスター。
「『看破』、『神測』」
『マザーウルフ』
『神測。敵総合能力C。対応適正レベル現在550。弱点属性なし。3階層統率モンスターとして発生。討伐した際、再発生まで3年必要』
「跳ね上がりすぎだろ……。これはいくらなんでも相手が悪い。ハチ――」
「分かってるわ! 皆! この触手を食い止めなさい!」
ハチの体内から気体が漏れると、それは竜へと変化。
荒れ狂う触手の内、陽葵さんが手に負えない分をそれぞれが相手する。
竜たちの攻撃力が相手の防御力を上回っているからだろう、触手を食いちぎることは問題なくできている。
しかし、食いちぎっても食いちぎっても触手は再生する。
言葉通り食い止めにしかなっていない。
「オロチ!? なんで……。でも、敵じゃない。不本意だけど頼らせてもらう」
その姿に一瞬驚いてみせた苺だったが、すかさず切り替え、本体へと向かう。
振り上げられた両斧は、轟音をあげながら超振動。
おそらく、これが苺の切り札――
「くっ! もう少しで、届くのに……。あ゛あ゛ぁあぁあぁあっ!!」
「まずい! 『多重乗斬』」
両斧が振り下ろされようとすると、黒い塊はここぞとばかりに無数の触手とモンスターをその中から瞬時に生み出した。
それに捕まった苺を助けようと、俺はスキルを発動。
苺も声によってそれを蹴散らそうともがく。
その結果隙間が生まれ、苺は未だ振動を続ける両斧をようやく振り下ろす。
「『荒』」
残っていた触手やモンスターは死んだ、というよりも強力な振動によって消滅した。
「凄い威力、だが……」
あまりにも強力なその攻撃に、苺の身体が耐えきれなかったのか背中や腕から血が吹き出た。
捨て身の一撃。まさに切り札。
「あ、ぅぅ……。あっが!」
「まだ生きてる、の? ……仕方ない、ね。ちょっと危ないけど……助けて、メロリン」
黒い塊、振動によってそのメッキが剥げ、一見白く立派な髭を携えただけの年寄りコボルトにしか見えないモンスター、マザーウルフが現れた。
流石にダメージはあったのか、呻き声を上げるが、信じられないくらい大口を開けるその仕草は間違いなく苺を食おうとしている。
身動きが取れない苺は仕方ないといった様子で、ついに自分の契約モンスターを顕現。
メロリンと呼ばれるそのモンスターは、尻尾を食われながらも苺を抱くと、再び姿を消したのだった。
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