75話 曲がり角
「……どうしたんだい、遥君。急に目を見開かれるのは怖過ぎるよ――」
「統率モンスター、仲間を食ってます。おそらくスキルの共食い(カニバリズム)で多分自己強化しているのだと――。……。もしモンスターを大量に産んでいたのがこの統率モンスターだとすれば……」
『神測』の結果を報告していると、 頭に最悪のパターンが思い浮かんだ。
それが正解だとしたら、胸くそが悪いにもほどがあるが……。
「自分が産んだ子供を食べているってことよね。モンスターに倫理観を求めてもしょうがないけれど……。その光景はできれば見たくないわね」
「逃げられたモンスター、食われると強くなる……だったらしっかり殺さないと。それに急がないとどんどんどんどん強くなられる。そうなると私1人でやる、が難しくなる。それじゃ有言実行できない」
「おいおい、さっきまで息切らしてたんだから無茶するな、って……。全く……融通の聞かない相棒だことで。悪いけど、僕はここを元に戻さないとだから、先に苺を追いかけて欲しい。やばそうなら、俺に許可もらったって言って加勢してやってよ」
「分かりました。ハチ、急げるか?」
「魔力を消費するのはまだ怖いけど、普通の運動なら大丈夫よ」
「急ぎましょう、2人とも」
ハチの体調を確認すると、俺たちは疲れているというのが嘘だと思えるくらいのスピードで駆けていく苺を追った。
しかし……。
「――は、速い……」
「ステータスにない部分、スタミナや足の速さは普通のままなのね……。帰ったら毎日特訓しないとじゃない」
「なんでちょっと嬉しそうなんですか、陽葵さん」
「が、頑張ってね遥様――」
「ハチさんも、探索者としてやっていくにはちょっと贅肉付きすぎよね……。ま、3人で頑張りましょ。それで、統率モンスターまであとどれくらいなの遥君」
「えっと……」
『神測。統率モンスター、現在地から約200m。この道を右折した場所に存在』
苺にすっかり置いてかれ、その姿を見失った俺は、陽葵さんに目元が笑っていない笑顔で目的地までの距離を聞かれ、『神測』を発動した。
その結果は……思ったよりも近い。
曲がりくねった道が多かったせいで苺を見失いやすかっただけで案外距離は離れていなかったらしい。
「正面を右で到着です。思ったより離れていなかったことを考えると、逃げていたモンスターは全て食われているはず……。強化の幅が大きければ、すぐに攻撃を開始しましょう――」
「あ゛あ゛ぁあぁあぁあぁあ!!」
嫌な予感が脳裏を過りつつ、急ぐ足をより速くすると、曲がり角から先ほども聞いた絶叫が、そしてそれを発動させてもなお、存在し続ける濃く厚い黒いモヤが俺たちの前に迫ってきた。
「これは……」
「状況は確実に悪いわね。私は相手の状態を確認する前に仕掛けるから」




