73話 暗
『――神測。到着まで残り5』
「宮平さん、あと5分です!」
「お前は大きく膨れている。お前は大きく膨れている。そう、人間を3人がなんとか通れるほどで、 今にも向かいの壁とひっつきそうなくらい」
階段近くの広間から少し歩いた辺り、3つの分かれ道の内モンスターが向かってきている道を選らんで進むと、その中腹辺りで宮平さんはユニークスキルを使用し始めた。
壁は徐々に厚くなり、宮平さんの言葉通りの狭さに変形していく。
あたかもそれが生きていると錯覚してしまいそうな不思議な感覚。
思い込みによってスポーツのパフォーマンスが向上するといった話をたまに耳にすることもあるが、これはそれの超強化版なのだろう。
「これなら一気になぎ払える。……ハチ、安心して休んで。絶対出番はないから」
「……期待してるわ」
両斧を握り意気揚々、準備万端の苺とは反対に歩けはするものの、未だに体調が悪いハチ。
俺の方が治ってはいるが、この様子だと今日の探索は早めに切り上げないといけないかもしれないな。
「……。まだ痛むか?」
「うん。でも大分良くなったし、取り敢えず仕事の5階層まではなんとかなるわ」
「そうか。また痛みが強くなるようなら――」
「ハチさんも女の子なんだから、本当に辛いときは無理しないで言って頂戴。私もそういう時はあるから。恥ずかしいかもしれないけど、もう一緒に住む仲になるんだから、お互いに助け合っていきましょう」
「ありがとう。でも、その痛みと今回は違うものだから大丈夫よ」
「……。本当に?」
「本当よ」
「そ……。でも無理はしちゃ駄目よ」
女性にしか分からない辛さというのがあるのだろう、陽葵さんは俺の話を遮ってハチの心配をしてくれた。
気を遣われたのが嬉しかったのか、無理矢理ではない自然な笑みを浮かべたハチはそっと陽葵さんの肩にもたれた。
「ふふ。それじゃあその肩、ちょっとだけ借りるわね」
「……。ちゃんと返しなさいね」
「勿論。ま、その時がくればだけどね。さて、道の準備は終わったみたいね。さて、あと数分。動くのはきついけど……ここから相手を視認くらいはさせてもらうわ」
宮平さんがふっと息を吐き、俺たちのもとに駆け寄り、それと入れ替わりで苺が正面に立つ。
準備が整い、緊張感が辺りに広がるとハチが目を見開いてその先を見た。
「あら? てっきり見えると思ったんだけど……真っ暗ね」
「真っ暗……ハチ、俺と陽葵さんに目を」
「了解よ」
ダンジョン内には魔結晶が点々と存在し、俺たちやモンスターに都合よく、光を灯してくれているはず。
いくら道を狭めたからとはいえ、真っ暗はおかしいのだが……
「本当に真っ暗だな……」
「よく見て。魔結晶が暗闇に飲まれてる。あれ、動いているわ」
「ダースウルフェンのスキル……。小範囲を暗くするだけじゃなくて、暗闇を纏わせることまでできるってわけか。あれだと、モンスターの正確な位置が掴みにくい。ここは魔法で――」
「ここは私がやるって言った。大丈夫。『一声』で吹き飛ばす」
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