72話 頭痛
「ちょっとねぇ。嫌々契約させられてると思ったらそれこそ可哀想って思うんだけど」
「嫌々じゃない、はず。モンスターには人間が同じダンジョン出身って誤解させてるだけで、人間を敬わないといけないとか、人間は過剰な実力を持っているとか、自分を奴隷だと思わせるとか、そんな自分の意思をねじ曲げるような強い誤解はさせてない」
「……あくまで自分の意思で契約している、と。ちょっと意地悪なことを言って悪かったわね。でも、私からすると、やっぱり普通のモンスターが自分の意思で人間と契約するなんて違和感でしかないのよね。……。あれはそう、人間を殺すための兵器、それを目的にプログラミングされているような存在で……。うっ、あ……」
話の途中、声色に変化を感じると、ハチは唐突に苦しそうに頭を押さえ始めた。
同時にドロッとした負の感情が俺の中に入り込み、胃もたれした時のような感覚が襲う。
以前、同調率といった言葉を耳にしたが、俺とハチとの関係が深くなればなるほど、痛みや感情といったものまでも共有してしまうのかもしれない。
「大丈夫か、ハチ」
「遥、様……。大丈夫です。それより、私のせいで遥様が……」
「気にしなくていい。ほら、少し膝を貸すから」
「ありがとう」
俺はハチの身体を支えながらゆっくりと地面に横たわらせると、そっと自分の膝を枕代わりにさせた。
呼吸の乱れはゆっくりと正常へ向かっているし、治るまで時間は掛からないだろう。
「ハチさん、きっと魔力の使い過ぎで反動が出たんだと思うわ」
「陽葵さんは体調大丈夫ですか?」
「私? 私はもう腕も良くなって、元気が有り余ってるくらいよ」
仮契約のお陰で陽葵さんはその影響を受けていないのか。
「その、これ私のせい?」
「大丈夫、苺のせいじゃない。それより、斧の方は……」
「もうちょっとでできそう。あれ見て」
苺は心配そうにハチの顔を覗いた後、自分に責任がないと安堵の息を漏らした。
そして、そんな苺が差し向けた指の先を見ると、さっきまで縦横サッカーボール2つ分くらいの大きさだった両斧が巨大化、更には血に似た赤色が禍々しく映え、まるで別物の装いへと変化していた。
「……ふぅ。ちょっとやる気ありすぎだったな、この子は。苺、この斧かなり強化できたけどちょっと予想より重さが増えて……。試しに何度か振ってみてく――。ってあれ? なんか凄い強敵でも出たの?」
倒れるハチを目にした宮平さんは、目をぱちくりさせながら苺に両斧を手渡した。
この説明は……まぁ、直ぐ治りそうだからしなくてもいいだろう。
「心配ない。大丈夫。それより、これ……いい感じ。早く切り伏せたい」
「良かった。流石に重すぎて機動力が、って思ったけど問題なさそうだね。さて、僕はもう一仕事あるからもうちょい頑張らないと。みんなには僕の仕事中モンスターたちとの距離を窺っていて欲しい。スキル発動中は無防備だから。ふぅ……それじゃあ大量討伐本格始動しますか」
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